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【完結】レフト  作者: 夏目くちびる
第〇章 攻城戦
11/40

決着

 うな垂れた様子のバーンドゥに言う。



 「……安心しろ。俺が必ずその転生者と話をつけてやる」



 「なに?どういう意味だ」



 バーンドゥの表情が揺れる。俺は気を失いそうな痛みを必死に耐え、言葉を続けた。



 「俺が王都に行って、お前に詫びを入れるよう説得してくる。同じ転生者なら、きっと話を聞くはずだ」



 「……ふっ。そうはいかねえよ。お前はこんだけの事しでかしたんだ。殺さねえと」



 「その後で殺せよ。どうせ俺も、こんな体で長生きできるとは思っちゃいない。必ず、お前の元に連れてくる。そいつには立場があるからな。猶更大人しく従うだろ」



 食い気味に言うと、段々とバーンドゥの顔の皺が薄くなっていく。



 「いや、まだダメだ。仮についてきたとしても、俺の生活が変わるわけじゃねえ」



 「変わるさ。だって、そこでそいつは死ぬんだから。結局のところ、大衆は強い奴を見て安心したいんだ。当事者にはなりたくないが、でも誰かに与えられる事を待っている。勝った奴から与えられるラッキーを期待しているだけなんだよ。なら、次はお前がそういう甘い夢を見させてやればいいじゃねえか。今までだって、この山賊だって、そうやって支配して来たんだろ?」



 「やめろ!絵空事を語るんじゃねえ!」



 俺は頬を張られて横に吹っ飛ぶ。しかし、立ち上がって更に言葉を続けた。



 「今更ビビってんじゃねえよ。俺をこの瞬間に殺さねえのは、お前だって何かを期待してるからじゃねえのかよ。だったら掴めよ。お前は、こんなボロボロの俺すら支配出来ねえのか?がっかりさせんじゃねえよ」



 「それ以上言うな……。言うんじゃねえってんだぉ!」



 葛藤は更に葛藤を呼び、バーンドゥを惑わせる。酒が、甘い言葉が、恨みが。その全てが奴の弱い心を刺激して煽り、ついに顔を伏せた。



 「言うさ。俺は、お前が天下を取った世界に興味がある。そんなぽっとでの奴に支配された世界なんて生きていたくねえよ。お前はどうなんだ?こんな捨てられた城で満足する男なのかよ。なあ!答えろよ!バーンドゥ!」」



 「うがああああぁぁぁあぁぁああぁぁあ!!」



 叫んで、奴は俺を蹴り上げた。飛んだ体は弧を描いて着地する。叩きつけられて、でも、ここで引くわけにはいかねえ。



 「啓蒙、フロントガラス、樹液、渓谷」



 俺は日本語でそういった。



 「な、なに?何のことだ」



 「魔法の呪文だ。実は俺も、その転生者と同じようにある力を持っている。こいつとお前の力があれば、その転生者を必ずぶち殺せる」



 「嘘つくんじゃねえよ!だったらどうしてそんなボロボロなんだよ!」



 「ちげえよ、バーンドゥ。使ったから()()()()の怪我で済んだんだよ。俺はここに来る前から、ずっと戦ってたんだ」



 「お前……」



 瞳が揺れる。こいつはもうまともじゃない。俺が誰の何でここに連れてこられたのかも、指摘出来ないのだから。



 「信じろ。お前はここから成り上がるんだ」



 「お……おぉ……」



 バーンドゥは拝むように泣いた。俺はそんな彼の肩を叩くと、ふら付きながらも立ち上がって剣を拾う。その動作に気が付いているのだろうか。それとも俺を信じたのだろうか。自分の背後に立つ俺に見向きもしない。



 「やろう。俺たち二人で」



 「あ、あぁ!そうだ、お前の名前を教えてくれ!」



 そう答えた彼のうなじに、俺は思いきり剣を突き刺した。



 「な……っ、どう……。こはっ……」



 更に俺はその剣の柄に全身の力を加え、背中を両断。刃が体に食い込むと腰の辺りで一度止まる。今度は柄を足で思いきり踏みつけ、地面にまでそれが届くとようやく全身を真っ二つに切り裂いた。



 「悪いな」



 しかし、彼はもう喋らない。音を立てて横たわると、最後に目だけを動かして俺を見てから、瞳孔を広げた。



 その姿を見て、俺は深くため息をついた。その時、先程の離れから物音が聞こえた。



 「ランス……」



 「……どうした」



 「下から来てるみたい。音が聞こえる」



 タイラーたちが力尽きたのか、それとも山賊が追い付いてきたのか。まあ、そんなことはどっちでもいい。どちらにせよ、追いつかれたら殺される。全く、息つく暇もないな。



 俺はバーンドゥの腰のナイフを拾い、腕を切り取って、それを喰った。



 「お前も食うか?」



 「……うん」



 腕を渡すと、クラリスも腕にかじりつく。筋肉が付きすぎていて、肉質が固い。咀嚼するにも一苦労だが何とか飲み込む。味は、もうわからない。



 腕の代わりに剣を捨てて、二人で歩き出す。馬車に乗れればよかったのだが、昨日の馬車は既に消えていた。……そういえば、薬師がいたんだったか。そいつを運び出すのに使ったのかもしれねえな。



 「行こう」



 北門を出て、そのまま真っすぐと道を進む。城の反対側とは打って変って、のどかな道だ。ここをまっすぐ行けば、きっとたどり着く。



 しばらく歩いて川が見えた。水を飲み、傷を洗う。バーンドゥの腕を食い尽くすと、俺たちは夜も歩き続けた。



 次第に、クラリスの体が重くなる。



 「傷……、また、増えちゃったね」



 「そうだな」



 「すごく……痛そう、だよ、大丈夫?」



 「そんなわけあるかよ。でも、行かなきゃ」



 「……ランスは、すごいね。どうして……そんなに……頑張れる……の?」



 「どうしてだろうな。わかんねえ」



 「そっか。……どう、して、……私を、連れて、行って……く、くれる、の?」



 「……わかんねえ」



 「……そっか。あり……がとう」



 「あぁ」



 「ね、ぇ、ラ……ン……ス」



 「ん?」



 「やっ……ぱり、あ……なた……は、私……た、ち、の……」



 ……。

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