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Slave Of The One-Eyes  作者: 軍団長マッスル
第九章 反復記号と複数線
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成さず我が世界

時代遅れのLEDが、二人を照らし出す。


少年は少女の為に。

青年は仲間の為に。


圧倒的な武力を持って、その対象を捻り潰そう。


「左腕はどうしたんだ、逝ったか?」


武藤辰吉。部隊内の役割は、対人、開発、指揮。対人戦闘において、焔人エスカに優るとも言われる戦闘技能。全距離において、俺側が圧倒的に不利だろう。

だが、匙を投げる訳にもいかない。勝ち筋、強いて言うなれば…、自滅か。全ての攻撃を受け流す事が前提となるが、先のJOKER戦の様に、機能停止まで追い込める筈だ。


「少し神経が逝ってな。1ヶ月もすれば治る」


ワズムルド、だったか。青髪の記録に拠ると、被攻撃時の戦闘能力が著しく上昇するらしい。いくら対人戦闘に特化しているとはいえ、それに対応する能力持ちは、流石に相手が悪いな。

だが、いくら能力が強かろうと限界はある筈だ。体への負担もそれ相応のモノだろう。能力解除か、使用不可になるまで追い立てられれば、の話なのだが。


一閃。

拳が真横を擦り抜ける。

完全に躱したのにも関わらず、頬には一筋の血線が走った。


「流石、東の産まれだけあるな…」

「…俺からしたら、何故頬傷だけで済んでるのか分からん」

「さぁ、早く来いよ。俺を殺してでも押し通れッ!!」


拳撃が嵐の様に吹き荒れる。その全てを躱している筈なのに、皮膚の表面には、薄く切傷が浮かんでいく。

何故だ?何故攻撃が躱せない?


「…くッ、そこだッ!」

「遅いッ!」


連撃の隙間、そこに攻撃を挟む筈なのに。反応速度がまるで違う。例えるならそう、地上から見た天体の様なモノだろう。

そこに見える天体は、現在の天体の姿ではない様に。

そこにある隙間は、僅かに視認出来た須臾(過去)なのだ。

須臾が見えた所で、それに対応出来る速度は持ち合わせていない。そしてそれを攻撃すれば、…ムザムザと隙を晒してしまうのは必然だ。


「どうした、護るんじゃないのかアイツを!!」


反撃した刹那。その首を掴み、壁に向かって何度も叩きつける。衝撃で、鎖骨と指が、軋轢で折れる音が響く。

圧倒的な戦力差。

圧倒的な武力。

だが、それでも(ワズムルド)の目は、


(カタキ)の如く灯っていた。


「…選べ。今ここで、諦めて消えるか――」

「言っただろ…、ッ()()()()()押し通れって、な…!」


施設権限がコイツに委託されている以上、ここの全システム停止の発令はコイツしか出来ない。緊急用のバックドアから操作して、全システムエラーを原因とした停止は可能だろうが、権限委託でどれほどの事が出来るかまだ判らない。


「…いや、賭けようか。大人しくここで――」


右腕の力が、意図せずに強まっていく。咄嗟に離そうとしても、まるで別の生物の様に言う事を聞かない。体全体が、薄く金縛りにあったかの様な感覚がピリピリと流れる。


「くッ…、早く切らないと死ぬぞお前!!」

「あ…?何を、切るんだって…?」


知らぬ振りじゃない。あの少女がする意味もない。

じゃあなんだ?


奴の能力は、自分を殺す為に発現したのか…?!


―WORST

急に流れ込むイメージ。

―I DON'T NEED

R.E.Dの時と同じ感覚。

―WILL'S ―――――

流されるな…、何とかしてこの腕を――


「な…」


その腕は、信じられない様な力で振りほどかれた。いや、違う。あの一瞬。その僅か一瞬だけ、まるで力が入らなかった。

多数の能力持ちなんてのはザラだ。そのいい例が凛だ。だが、本能的に感じてしまう。


あれは、能力なんかじゃない。


「なんとまぁ、不可思議な術を使いやがる…」

「術だって…?はっ…、使えないよそんなモノ」

「だろうな。…源の感覚が全く無い」


源を先天的に失う事はまず無い。誕生、と言う呪詛に因って、強制的に接続されるのが、この世界の理だ。

だが、失うとすれば可能性は2つ。


・世界に逆らえるだけの聖骸を持っている、か

・世界と張り合える程の呪悪を持っている、か。


想像以上にヤバい仕事だな…、これは。


『OIL AIRS、全駆動系統起動。殲滅指示まで待機します』

「くッ、そこを動くなよ娘ッ!!」


まだ治りかけの傷口が、一歩ごとに開いていく。

だが、この脚だけは止められない。

勢いと力に任せ、小刀を全力で振り抜く。


「今更、後には退けないんだ…!」


だが、その刃は届かない。

一瞬眼の前を舞った銀粉が何なのか。

それすら考える余裕は無かった。


「早く押せッ、ルーシアッ!!」

「ぁ…、………ッ…………」


人を殺す準備は出来ても、覚悟が出来ていない。

だが、1つ不可解だ。

お前の性格を見るに、

お前は何としてでも少女を止める筈だ。

だとしたら、

本当にお前は、

その計画に乗り気だったと言うのか?


「あぁ…、そう言う事か」

「邪魔だ退けぇッ!!」


自分でも信じられない様な力が、その刹那集約した。

だが、疑問に耽っている時間はない。

俺は何の為にここに居る?

護る為じゃないのか?

だったら、俺がやる事は1つしかないだろう。


「…!」

「いいや…、俺が間違ってたな」

「何…してるの?」


ルーシアの、

その震える少女の手を、

支える様にレバーを握る。


「なぁ、軍人さん」

「ッ…、何だ?テロリスト」

「お前なら、全員()()()()()()()よな?」


その意味は判っている。反応も知っている。

だが、その心が見えてこない。

お前が善なのか、悪なのか。

だから今は、雑用係をこなさないとな。


「…そんな事、見逃す筈はないだろ?」

「…じゃ、決裂だな」


無機質で非情な声。

だが、コレが正義って奴なのかもしれない。


終演の幕は(命の殲滅は)再度開かれるのだ(冷たく引き起こされた)

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