騎士として、友として
『私は、私の為に…。貴方は、貴方の為に…!』
澄んだ瞳が、潤んでいくのが分かる。
どこまでも鋭利で、
どこまでも正直な刃。
一度として血を吸った事の無い、純情な刃。
『…、私は…』
だが、それを下す勇気はなかった。
あの人を裏切る事は出来ない。
たとえ、私が死ぬとしても、
私にはあの人が、必要なのだから。
だから、私は下さなければならない。
その全てを、断たなければならない。
『私は…、貴方を、』
―コレガオマエノ世界ダ
死シテナオ必要トサレ
ソノ死ヲ認メラレヌ
―ソレデモマダ、自ラヲ殺スカ
「あぁ、テメェを殺して、処刑される。それが宿命だ」
―オマエハ仲間ヲモ裏切ルノカ
兄妹ノ様ニ、オマエヲ想ウル者モ
過去ヲ封ジ、オマエヲ愛スル者モ
戦友トシテ、オマエヲ信ズル者モ
―ソノ全テヲ、オマエハ裏切ルノカ
「…だから、何度だって言ってやるさ」
幻は、露に消える。
その理を護れないなら、この茶番は必要ない。
「仲間ってのはな、消耗品だ。…覚えておけよ、8bit」
空間が砕け散る。この程度の幻惑如きで止めてみせるなんて、どこまでも巫山戯た野郎だ。嘲笑わせてくれるぜ。
「おい、尻軽。飛べ」
「…階段は?」
「あんな長いの上る気にならん」
あの螺旋階段の高さ。本当に成層圏を突破してるんじゃないか?いや、誇張でもそれはないが、少なくとも雲は突き抜けてる。
「…武藤はどうすんの?」
「さぁな、俺の知った事じゃねぇ」
「…じゃ、飛ばすから捕まっててよ」
―同時刻、OIL AIRS 最下層
「…で、ホントにやるのか?」
「お兄ちゃんは…、止めるだろうけど。私は…、やるよ」
澄み切った声。その震える体を見て、俺は何が出来るのだろう。産まれ落ちて12年。たったそれ如きで、少女は無垢な人々を手にかけられるのだろうか。
「私は、ってのは駄目だな。私達、だろ」
「ムー君は…、嫌なら辞めても良いんだよ?」
いつもの威厳も、小生意気な声も、そこには無かった。
それは、自らを責苦する少女の声。
羨望を、愛情を、親愛を。
その全てを消されても、
自分が悪いのだと自己暗示する少女の声。
「嫌だったら、俺はここまで来てないな」
「…そう、なのかな」
「あぁ、だからいい加減――」
照明を全て点灯させる。
紛れもない守護者が、そこに一人。
抹消するべき対象として、コチラを見据えていた。
「武藤辰吉、で合ってるか?」
「ああ。覚える必要性はないが、な」
殺気が感じられない。
だが、明らかな敵意は感じ取れる。
「ルーシア、隠れてろ。俺がやる」
「俺がやる、じゃない。俺しか殺れない、だろ?」
「…」
「青髪から、エスカの事は聞いた。凛と義妹を手にかける為だけに、国1つ焼き払うとはいい度胸だ」
左腕があまり動いていない。事前情報では、身体能力に問題はないと記憶している。後は、危機時の爆発力だけか。
先のJOKER戦の影響、なのか。
「…お互い、苦労してるな」
「あぁ、お前も年取ればわかるぜ」
突如襲い来る静寂が、嵐の如く舞い込んだ。




