違和感を経
「で、操作本体は分かるのか?」
「多分…、海だね」
「霧の海か?」
「いや、泥厄海」
泥厄海。人類文明が壊滅しかける程の巨大な津波が残した、人類史の汚点。その波は泥の様に細かく、湧水の様に澄んでいたと言われている。
「泥厄海か…。起動用のキーは?」
「ENFORCERが持ってるんじゃない?」
「アイツが…?」
目的としては、どうせまた殺戮だろう。もとより、それしかアレには与えられていない。起動には高エネルギー、今回の場合だとJOKERの精神密度を使った自己圧縮機能だろうな。
「おいクソ女、バイク」
「う〜わ、違法だ違法」
「盗んでないさ、死ぬまで借りるだけで」
「その心は?」
「ミスったら全員死ぬんだ、文句ねぇだろ?」
「あり過ぎるね」
バイク免許は持ってない。操作方法さえ分かれば別にどうでも良い筈だ。免許なんて必要ない。…ま、歩道を走る二輪共は少なくとも殴るが。節度は守れ、ドライバー共。
「で、エーちゃんの所行く?」
「…いいや、それは必要ない」
「どして?」
「俺の能力、知ってるだろ?」
「あぁ、あのゴミ能力?」
「…さて、気付かれる前に行くかッ!」
アクセルと同時に、タービン錠の空回る音が響き渡る。その音は少しずつ重さを増していき、ハンドルを握る手に汗が滲んてくる。
「居たぞ!皆喰を出せッ!!」
「クソッタレ!R.E.Dか!!」
「鍵は?!」
「ぐッ…!あと少し…!!」
エーテルラインが蛍く発光する。
魔力素子充填
外部電源接続
内部電源接続
電磁回転開始
特殊装甲展開
波動循環固定
「よし…電磁駆動走行術機、最大出速ッ!!」
メーターを振り切る程の速度。そのスピードに体が置いていかれそうになるが、今は運転に全神経を集中させる。
「おいアバズレ、俺に合わせろ」
「…良いよ、面白いじゃない」
バイクに回転を掛け、無理矢理方向転換をする。無尽蔵に襲い掛かる触手を、全てその刃の下に斬り伏せる。
「相変わらず気持ち悪いなぁ、テメェはッ!」
剣を投擲する。
当てる為じゃない。
弾かれる為に。
「ハンドルよろしくッ!」
「おっけ任されたよい、っと」
その速度を乗せ、真上へと飛び、蹴り抜ける。
一直線に斜めへと穿たれる喉。
その巨体、
その鈍重さ。
避ける事は不可能に等しい。
「さぁて、準備運動の始まりだぜ」
右半身が吹き飛んだが、そんな事柄に興味はない。
心を満たす開放感。
変わらず占める虚栄感。
その全てに、今踊らされている。
「実空を枯らし 虚空を満たす者
真実に酔われ 虚構を閉じし者
不命を 現命を 神聖を砕け
我が天命は我に有り
他が宿命は我が物に
光を焦がす白雷を その世界に焼き付けろ」
雨雲を切り裂き、その圧倒的な光量が収束する。
その姿は光々しく、そして戦慄を覚えた。
「その身を焼き払え、衛星電光力収束砲ッ!!」
視認する事は不可能な速度で、ソレは着弾する。
辺り一帯の音を、光を、理不尽なまでの光量で灼き尽くす。
勿論、着弾などすれば想像に難くない末路が待っている。
だが、曲成ともソレはR.E.D。
その存在を殺さなければ、全ての行為は無意味となる。
そこまで対処出来てこそ、真の勝者と言えるだろう?
「第二射、放てッ!!」
出力を落とした拡散砲撃。
その全てを剣へと撃ち込む。
複雑な軌道を経て、ソレは持ち主へと引き寄せられる。
掴んだその手から、全身へ電撃が走る。
気に留めるな。
気を緩めるな。
全神経を剣と繋げ、
対象の存在を消し飛ばせ。
「最大限の慈悲だ。吹っ飛びやがれ化物がァッ!!」
その切断面は、少しの歪みも無く平坦に。
放出されるエネルギーは荒く流動し、
全神経細胞に行き渡る。
「おっと、お早いご帰還で」
「リハビリなんだから仕方ねぇだろ」
「精神破壊?」
「俺だったらそうするな」
「場所は?」
「ENFORCER自体を叩く」
「じゃ、早く行かないとね」
ハンドルを再び握り、電力を限界まで上げる。
アイツがデバイスじゃ無い事は分かる。
だからこそ、救わなきゃならない。
―恒久的な世界の為に。




