純粋、再臨
「ん…、?」
「起きたか、イスト」
「ここ、は…?」
「霧の海、その中腹だ」
体が動き辛い。特に両腕は、上げる事すらままならない。そう言えばなんで寝てたんだっけ…?確かサードちゃんが――
「なぁ、イ――」
「サードは、死んだの?」
「え?」
「あの娘は死んだの、って聞いてるの」
…ヨネか。確かに、サードが死んだかどうか。そんな事に意識を向けさせちゃ駄目そうだもんな。まだアイツは、そんな事を受け入れられる様な状態じゃない。
「多分、な。消えた分のお前らの魂は戻るだろうが…」
「…分かった」
手馴れた様子で、左眼の眼帯を巻き直していく。そこにある筈の傷に、目を向ける言は出来なかった。
布の擦れる音が消えた後、森は呼吸すらしていなかった。
暗い部屋。
暗い世界。
その全てが希望であり、
その全てに絶望を。
我が存在は人間として。
我が肉体は化物として。
我が魂魄は血獣として。
他が存在を希望とし、
我が存在に絶望を与えん。
「…随分とまた、遅かったな。」
「苦労して、ここまで辿り着いてやったんだ。感謝の1つぐらい、言ってもらっても良いと思うね」
助けてもらって置きながら悪態をつくとは、流石オリジナルとしか言いようがない。どうせ一人では出られないくせに。
「さて、と。…大体状況は知ってる」
「じゃ、私の役目は終わりか――」
「…?、ちょっと待て」
「…なんでさ」
コイツがここを見つけられたのは、恐らくデバイスの残存記憶を読み取ったのだろうが。それにしたら不可解過ぎるな。
何で残存記憶を読み取れる力を持ってるんだ?コイツ。
「それくらい、自分で考えたら?」
「気付くのが遅かった詫びをしろよ」
「…」
「…ま、良いかね」
気付くのが遅かった、なんて言っているが、デバイスか本体かの違いは殆ど無いに等しい。ノーヒントでここまで来た私を褒めて欲しいもんだね。
『変異隔離ブース第1083-13-B13の無断開放を検知。防衛体制A0957-8番を稼働します。速やかに対象を無力化してください。繰り返します、…』
「あ〜らら、動いちゃった」
「…馬鹿なの?」
「ここまで見つからなかった私をまず褒めてよ!」
「誰が褒めるか厨二病女!テメェの乳搾るぞ!」
「あ〜もう頭きたわホントに!」
「やんのかテメェ!!」
「やってらろうじゃないのさ!!」
能力も使わず、ただ純粋な力のみの激突。
つまり――
「は〜い、私の勝利〜♪」
「この怪力バカめ…」
凛が負ける事は、必然だった。
「…馬鹿騒ぎは、これくらいで十分か?」
「えぇ、このくらいで」
外壁まで一直線に爆破する。我ながら思うが、凛よりなんでこんな強くなっているのか分からない。まぁ、それによる弊害なんて無いし、問題は無いから良いか。
ゴミカス女の記憶を見た。
だからこそ正さなきゃならない。
凛の正義も、
ENFORCERの正義も、
その全てが、
俺にとっては愚考でしかない。
日々の安定?
弱者の保護?
馬鹿らしくて笑えてくるぜ。
正義とは何か。
善悪とは何か。
そんな所に執着するから、
―殺人鬼程度に墜ちるんだ
「さぁ、二週間分還してもらうぜ…!」




