誇れるモノは、
少し千切れ欠けている左腕を押さえながら、1つ呼吸を置く。幸い、他に人の気配はない。少しだけ、気を緩める。
「私を助けるなんて、意外とデレてくれるじゃん?」
「今の貴女なら、手を下さずとも死にますから」
「…バレてたか」
強く握り締める度に、腕に指が喰い込んで行く。もう不死身でもなんでもない、普通の少女の体。聞こえる金属音が、骨に共鳴して砕けていく。
いや、体という表現すら間違っているか。
「コレが…、アンチ・デバイス?」
「恐らくは。大体スワンプマンと同じ様なモノです」
「思考実験のアレか」
「被験者のクローンに偽装経験を刷り込み、自我を束縛。命令を受け付けるアークプロセッサと、それを永久施行させる反魔力循環術。
まぁ、言ってしまえば人形魔術の応用ですね」
何故それを知っているかはさておき、コレが本体ではないと言うのならば。本体は今どこに居るのか。
「そうですね、恐らく拘束されていると思われます」
「それか、この騒動の中心に居るか、だね」
恐らく私達を襲った理由はそこにある。何に使うにしろ、アレが持つエネルギーを使用したいのは明白だ。
「ENFORCER、」
「何でしょう」
体の形状劣化が始まっている。肩が軽くなり、両袖にソレらが重く落ちた。構成材料が砕け、異常なまでに縮小する腕。…そりゃそうさ。肉体も無しに精神だけで生きていける程、この世界は寛容じゃない。私もヨネもジャックも、所詮精神だけの存在。
妄想物が、現実に生きていて良い筈がないんだ。
「私の事、嫌いでしょ?」
「…えぇ、そりゃあもう」
「ジャックは?」
「…、さぁ」
あぁ、それだ。その言葉だ。
待ってたんだろうなぁ、あの娘。
寝て起きて、日々を暮らして、
そんな普通の日々が、欲しかったんだろうなぁ、って
「看取ってくれるのが貴女かぁ。感慨深いねぇ」
「…せめて、死様だけは見届けてあげますよ」
「優しいんだね」
「無駄な事がしたくないだけですから」
『君は、正義とはどういうモノだと感じた?』
『正義…ねぇ。正義なんて所詮、人間が創り出した想像の産物。所謂エゴだね。そんなモノに興味も無いし、私は正しくもない』
『君は、自らを正したいとは思うか?』
『間違っているから、そこに私が居る。だからこそ、人殺しも陵辱も厭わない。卑劣だろうが外道だろうが、それを定義するモノなんて初めからない』
『君は、それで幸せなのか?』
本当の、最後の鍵が開く。
私は、…幸せだったかなぁ。
翆、黃色や灰色。
、…そんなモノが全てだったのに。
私は何を遺せただろうか。
私は何を助けただろうか。
そんな事に意味はない。
それは私の役目じゃない。
ならば、私は誇っていて良い筈だ。
人殺しも、
陵辱も、
私自身も。




