晩餐
「くっ…、」
体に戻るのは7年来だった為、強烈な倦怠感が全身を襲う。ギリギリ立ち上がる事は出来るが、それでも四肢の痺れが強く現れている。
「加瀬っち大丈夫?」
「あぁ、何とか大丈夫そうだ…」
「そんな風には見えないけど」
低く伝わる轟音と振動。最終障壁もそろそろ限界らしい。ああ言うのが本当の化物なんだって、つくづく思い知らされてたからな。絶対に今じゃないが、この感覚が酷く懐かしく感じていた。
「ENFORCER、JOKERを譲渡せ」
「嫌です」
「…、早くしろ時間が無い!」
「そういうのは後でやって欲しいんだけどな…」
遂に封印結界板が蒸発する。降り注ぐ金属の雨を受け、拍動の様に明滅を繰り返す光輪を浮かべながら、ソレは姿を現した。
溶けた金属が鎧の様に体を覆い、所々見え隠れする体は黒く焼け焦げた骨になっている。
「最近体がおかしいなぁ、って思ったらそのザマか」
「一体どういう事ですか?コレ」
「…大方、感情のコントロールがイカれて暴発したんだろうね。制御装置の修繕なんて優先事項の筈なんだけど」
正直何が原因なのかは分からなかったし、アレが何なのかも分からなかったが、少なくとも今勝てる相手でもないし、かと言って逃げれるかどうかも賭けになる。
「加瀬っち」
「…あぁ、ソレしかないよな」
「ほら、つまんない意地なんて捨てて」
「…」
物凄く不満そうな顔をして、JOKERを投げ渡してくる。先の襲撃からするに、あの化物はJOKERを狙って襲って来たと見て間違い無いだろう。
何の為に狙っているのかは分からないが、取り敢えず引き離して体勢を立て直す。その後で、凛さえ見つけられれば、あの化物は殺せる筈…。
「じゃ、後はよろしく」
「お前らも早く来いよ」
「はいはい、分かってますって」
外口の非常階段を降りる音が遠くなるにつれ、骨身に直接響く圧迫感が襲ってくる。肺が灼け、脳は溶ける感覚。体の震えが、自身の骨を少しずつ曲げていく。
「ホント、貧乏くじはいつも私か」
「安心してください、私もですよ」
加瀬っちの言葉には答えられないかも知れない。少なくとも、あの状態から治す事がまず無理かもしれない。
あ〜あ、録画見とくんだった。
「さて、エーちゃん。勝率はどのくらいで?」
「聞かなくても分かってるでしょうに」
「…ま、そうだよね」
甲高い咆哮と共に、肉体が少しずつ復元されていく。どうやって対処すれば良いかなんて知らない。当たって砕けろ、初見実習。MODE:ΓBさえ剥がしてしまえば、正気に戻ってくれる筈だ…。
「…良い気分だ」
「人の能力使って、よく言うよ」
「少し手荒でも構いませんね?」
「あぁ、この際1つ分からせないとね」
体を少し下げ、攻撃に備える。精神接続を断てている事から、結構面倒なモノを抱え込んでるらしい。あの爆熱の件といい、光輪の件といい、暴発にしてはやり過ぎな気もしなくも無いが。
「神になれた?無差別殺戮野郎」
「まぁ、そんな所だな」
「…意外ですね、会話出来るんですか」
「そりゃそうさ、だって――」
荒れ狂っていた爆熱が、一瞬にして冷えていく。急激な温度変化のせいで発生する霧と、そこに流れる雷。いや、それは雷とも呼べない異常電圧であった。流れる電気が束となって見える程集約されている。
照らす光輪
響く衝撃
鎧を纏う神の姿
誰が呼んだか、呼べるのか
轟くその名は――
「感動の再会なんだからなァ…!」
神鳴




