久遠の梅邸
綺麗な梅が沢山咲き誇っていた。俺が生まれた時から全く変わらずに、その花を散らせている。花見ってのは良いな。こんなにも見た目は違うのに、俺達と同じで生きている。
「花なんて見て、楽しい?」
「あぁ、楽しいな。心を癒やすには最適だ」
この梅も、2年後には無くなってしまう。ここが大きな介護施設になるらしい。どうせまた、政府の支援用なのだろう。
そこまでして生き残りたいのか?
そうまでして成し遂げたいのか?
爺さん婆さんに出来る事なんて殆ど無いだろうに
「まぁ、アンタもそれは分かってるか」
「私は別に、甘味処が有れば良いかな〜」
「それくらい自分で作れよな…、全く」
そう言いながら、財布の中身を案じてしまうのは酷いもんだ。洗脳に近い。
「…外、どうなってるかな」
「凛達がそんなに心配か?」
「いいえ?疑いも心配もしない貴方に引いてるだけ」
「友達を疑う様なことするもんか」
「はー、アレだ。辰吉ってロマンチスト?」
「常識だろ?それくらいさ」
この梅が無くなってしまうのは、俺としても看過出来ない。でも、消えた方が良いとも思っている。
この梅は、故郷。そして、檻なのだから。
「縁を切っても、また作ればいい」
「何をそんな当たり前な事を…」
「むぅ、今のは名言でしょー?」
「それより、開くの手伝え。俺一人じゃ無理だ」
「みたらし2本、でどう?」
「はぁ…、足元見んなよ」
いつ見ても変わらない門。手を掛ける所も、鍵穴も無い。おまけに、門が付く筈の家も無い。…相変わらず人を苛々させやがる。
「ほら、ボサッとすんなよ」
「あの木、まだ咲かないね」
ココに来た頃から、この辺りはずっと変わらない。命に必要なのは変化だ。進化や退化、破壊や再生。そして、創造と忘却。
「そりゃそうだ。あれじゃ周りの梅が強いから咲かん」
「綺麗なんだろうなぁ、姫林檎」
「てか早く手伝ってくれよ。はぐらかすな」
「…そう、だね」
軋んだ音を起てながら、ドアが開いていく。空いた先の暗闇から、肌寒い風が流れ込んでくる。いつ見ても、この光景は幻想的だ。
「じゃ、またね」
「そんな事言わなくても直ぐ会うだろ」
「みたらしの事、忘れないでね?」
「…はいはい」
癖で左腕を動かそうとしてしまうが、無駄な事は判っている。門を越えた先、慣れない右腕で手を振り返す。
「気が向いたら持ってきてやるさ」
「忘れたらまた、アレしちゃおうかなぁ?」
「それだけは止めろ、絶対」
呆れながら、闇の中へ飛び降りる。
「変わんないな、アンタ」
「貴方に言われたくはないね、絶対」




