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Slave Of The One-Eyes  作者: 軍団長マッスル
第七章 人外鬼畜のBREAKER
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誰がモノを言う

腐りに腐った酒の臭いが、意識を呼び戻す。黄ばんでひび割れた壁にカビが大量発生しているだけでなく、足跡が付くほど溜まった埃まみれの床。

それになんだ?この腐乱臭…。


「…んな事言ってないで酒寄越せガキィ!」

「酒ならさっき呑んだだろジジイ!」


向こうの扉から喧しい音がする。俺達みたいな冗談めいた言葉じゃない、純粋な罵詈雑言。…まぁ、少なくともサイコパスじゃないだけマシか。


「はぁ…っ、そういやあのガキはどうした?」

「今お袋が処理してるから黙ってろよ…」

「あぁ?!もっぺん言ってみろ!」

「黙れこの穀潰し共!」


アイツが…、お袋って奴か。で、話の内容上あの娘がイグジストなのか?確かに、こんな野蛮人と一緒にいたら、心歪みそうだな…。


「名前はどうするんだい?」

「んなもん要らねぇだろ。どうせ言わねぇしな」

「同感、考えるだけ無駄だ」

「確かに、()()に名前は要らないね」


一瞬、意識が飛びそうになる。吐気を感じる笑い声。何が楽しいのか分からない獣共。いや、獣の方がマシだ。

でも、ここで出て行ったらどうなる?歴史の改変になるんじゃないか?いや、たとえ出て行ったとしても、今の俺が関わる限り未来は変わらない…。

出て行っても、ただの自己満足になるだけだ。


この世界に来てから、3年が経った。真実ってのは、やはり事実じゃないと説明つかないってのは本当らしいな。

レジェクション・オーディエンス

あの母親は、正真正銘のクズだ。家事はしない、稼がない、それでいてヒステリック。暴力なんて日常茶飯事。しかも親父息子じゃなく、まだ3才のアイツにだぞ…?!

アポリプシ・オーディエンス

息子、兄貴だな。比較的大人しいがあくまで()()()だ。腹の中はもう黒ですらない。影で暴力を振るい、万引きは常習。そして未成年の癖に酒呑みやがる。命の重みなんて均一な訳あるか、閻魔様…。


そして、あのクソ親父だ…!


名前なんて知らないし知りたくない。働きもしないで昼間っからスロット、煙草、酒、薬、風俗!アイツに人間やる資格は無い。それだけならまだ他のクズ共と一緒だ。だが、そんな奴等なんて置き去りにする様なクズだ。

あんなのは化物や獣ですらない。


「おい、あのガキはどこだ」

「倉庫にでも隠れたんだろ、馬鹿馬鹿しい…」

「そうか…へっ、優しくしてやるから出てこいよガキ!」


家中に酒をばら撒きながら、隠れている娘を探し、見つけ、酔わせる。この時代、酒はまだ18歳未満は呑むなと定められている。それを知らずとも逆らう父親。

何度か我慢の限界が来た。その度に粛清した。でも気が付くと、そこは殺す前の世界になっていた。俺がどれだけ奴等を殺しても、それが変わる事は無かった。


次に殺したのは、その2年後だった。心がどんどん乾いていくのが解り、助ける事の出来ない苛立ちを自分に返す事しかなくなっていた。


「早く飯作るんだよ」

「…はい」


その日は一段とヒステリックに叫んでいた。


「できま――」

「この汚い料理はなんだいガキ!」

「ぁ…」

「お前のせいで食材が無駄になったじゃないか!」

「…ッ、ごめ――」

「謝ったって許さないよ穀潰し!」


振りかぶる音。また手を上げているんだろう、投げたとしても酒缶だろう。そんな風に思えてしまった。

鈍い音と共に、母親の声が震え始める。頭の記憶が引き摺り出されていく。滴る液体、流れ出る流体、溢れ出る鉄分。その全てが懐かしく、そして心を呼び覚ました。


「堕ちろクソア――」


当たる寸前まで、気付かなかった。

床に撒かれた煙草の燃えカス。

砕けた灰皿。

左目から湧き水の様に溢れ出る血を、

今の今まで見ようとしなかった。

つまりそれは――


「あ、アンタなんだい!早く、通報を…」

「…黙れ」


枯れていた花が蘇える様な開放的な気分の中、思った。



俺もアイツら(クズ共)と同じじゃねえか。

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