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Slave Of The One-Eyes  作者: 軍団長マッスル
第七章 人外鬼畜のBREAKER
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ハルジオン

「痛ッ…、膝逝った膝…」


気が付くと森の中に居た。いや、正確には居る気がするだな。体に生気がない。でも擦り傷が出来た以上幻覚ではないらしい。


「なるほどね…。精神世界か」


恐らくJOKERのだろう。そんな力を使って、一体何がしたいのだろうか。そもそもこんな場所で何をしろと。説明くらいしてくれたっていいだろ。

水の音。取り敢えずそっちへ行こう。これは持論だが、科学知識では、精神が電気信号なのはご存知だろう。魔術知識での精神とは自我である。

人の維持に必要なのは、水と栄養。魔術的に見ても、科学的に見ても、水や食糧は精神世界において必要不可欠だ。


「…。ん?」


ふと空を見上げると、数え切れない星が煌めいている。だが、問題はそこじゃない。星が一向に動かない。意識的時間は進んでいるのに、世界的時間は動いてないのか。

音源に辿り着いた。川じゃなくて泉の音か。そして、泉の中央に建つ小さな家と、真新しいテーブルセット。まだ暖かそうなティーポットがある。

人が居るんだろう。渡る手段がないので、仕方なく泉を突っ切ろうとして…、止める。明らかな罠だ。隔離された場所へ、正規の手段で通らないのは、人の心を踏み荒らすのと同義だ。


「どうしたんですか?」

「あぁ、少し考えに耽ってただけだ」


てっきり家の中に居ると思ってた。これであの家へ行ける筈だ。長かったなぁ、ここまで。外の時間は進んでないんだろうけど。


「少し…、休ませてくれないか」

「えぇ、どうぞ」


音も無く、中央へと続く橋が出来上がる。一方通行ではない事を祈って、後に続く。綺麗な家だ。

少女の持っている籠には、梨や葡萄がぎっしり詰まっている。確かに美味しいんだが、2つ合わせて持つと不吉だと思う。人の好みにとやかく言えやしないが。


「どうぞ、ゆっくりしてください」

「ありがとう」


あの清楚な立ち振る舞いからするに、ここはイグジストの世界なのか。サードやヨネだったらボロが出る。絶対出る。

自我として個々がしっかりと認識されている以上、魂が4分割なんじゃなくて魂自体が4つなのか。

裁くべきはあの2人なんだが、それをすると残りも一緒に死ぬだろう。あの歳だ。長い間自分として構成していた部品が完全に断たれるからな。分離させて、かつ裁く方法を考えなければ。


「お名前、なんて言うんですか?」

「加瀬士だ。アンタは…、イグジストだろ?」

「よくご存知ですね」

「お前の知り合いから聞いてな」


合ってるっちゃ、合ってる。


「あぁ、サードちゃん達から?」

「まぁ、そんな所だ」

「…その紅茶。飲み切ってくださいね」

「そんな事言われなくても、美味しけりゃ飲むさ」


少し葡萄の風味が感じ取れる、渋味や酸味が少し効いた良い紅茶だ。前に店で飲んだのとはまた違う味になっている。やっぱり個性とかが出るんだろうか。


「準備が出来たって、ヨネちゃんが言ってたんです」

「何の準備か知らないのか?」

「あの娘達は、世界をいっぱいを聞かせてくれました」

「あれ、質問は…?」

「発音とか文字、綺麗な風景から思い出まで、全部」

「…この世界から出た事が無いのか?」

「始めて自分で家を出たのが、つい最近なんです。でも、その一瞬だけ。その後はずっとここに独りぼっち。サードちゃんもヨネちゃんも、来る事は無かった」


いや、辿り着けないんだろう。元々は同じ世界を持っていたが、それぞれが分岐して変質し、世界同士が無意識に拒絶したんだろうな。


「ん、それより前の記憶は無いのか?」

「…お酒の匂い、くらいしか覚えていないんです」


記憶喪失じゃないな、これは。少なくともサードが全部真相を知ってるのは明白だ。…問題は、ここからどうやって抜け出すかだな。


「はい」

「この花…、姫女菀か」

「春紫菀ですよ。紛らわしいんですけどね」


貧乏草だっけか、コレ。まぁでも、手折ってなさそうだし良いかな。それにしても、なんか別の意味あったっけ…?


「真実を知りたいのなら、咲かせなさい」

「真実…」

「って、ヨネちゃんが言ってました」


この場合、花に籠められているのは俺の真実じゃない。でも、良いのか?真実なんて仰々しく言って、咲かせるのを拒絶する様な伝言。


「…咲かせてください」

「…」

「お願いします…!」


真実を拒絶しなければならない2人

真実を知らなければならない少女

拒絶をすれば、少女は苦しみ続け

知ってしまえば、少女は死ぬかもしれない

続く苦痛と、崩壊する死

救いなんて知らないけれど


「…ごめんな」

「…いいえ」


蕾が開き始める

もう後戻り出来ない

でも、不思議と


「ありがとう」


嫌な気なんてしなかった。

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