解錠
「どうすんの?」
「障壁を全展開して時間を稼ぐ」
「修理費は?」
「国が出すさ」
壁に沿って建てられた螺旋階段を登っていく。第一障壁の起動。保って1分だな。それまでに第二、第三まで起動して突き放す。
「飛んだほうが早くない?」
「そんな力持ってないんだよ。飛びたいなら先行ってろ」
「おけおけ〜、って痛ッ!」
転げ落ちる前に手を掴む。自分も飛べないくせに何言ってんだコイツ。責めてる時間の方が馬鹿馬鹿しいか。
「飛べない…?」
「良いから行くぞ!障壁が保たん!」
第二障壁の隙間から、修復不可能な程の障壁が見え隠れする。熱の原料はどこなのだろうか。能力なのは言うまでもないが、常時爆熱を発していたら体の方が保たない。
「…あ〜らら」
「どうした?」
「だから帰るなって言ったのに」
第二障壁が溶け始めている。予想よりもずっと早い、いや早過ぎる!中央部分から全体に広がっている。中央?飛べるんだったら最初から飛べばよかったのに。
「加瀬っち、提案」
「手短に」
「槍で上まで登れない?」
「呼んだら来るだろうけど登れないな。兵士各自に戻る様にプログラムされてるから動力源には出来ない」
「結構。JOKER離さないで…!」
足を止めようとした瞬間、急に壁に阻まれる。いや、壁じゃなくて結界…?このタイプの結界って確か…。
「しっかり助けてね☆」
「…、やれるだけやってみるさ」
ガラスが圧迫されて割れる様な音が連鎖的に小さく聞こえる。結界の中だからなのだろう。外は酷いだろうな。
「では、2名様ご案内で!」
気が狂いそうな程の強烈な抵抗と共に、蓄積された破壊エネルギーを推進力として一気に屋上へ舞い上がる。さぁ、しっかり約束は果たさないとな。
「取り損ねるなよ!」
溶けた障壁の隙間を縫って、槍が戻ってくるのが見える。相変わらず速度がおかしい。こんな所に予算を使わずに別の所に使ってほしい。エアコンとか床暖とか街灯とか。
「それ、掴んでるのか?」
「うっさいな、黙れナス」
「分かってるよっと」
取り敢えず屋上には着いた。最後の障壁を起動する。逃亡ルートを考えないと、アイツに殺されるかもな…。まだ死にたくはないし、考えるしかないか。
「取り敢えず霧の海行こう。暫くは隠れられる」
「遠いけど、どうすんの?」
「そん時はそん時で考えるさ」
「最悪JOKER使って時間稼…、JOKERどこ?」
「さっき飛んだ衝撃で転がってんじゃないか?」
「…」
「…」
見当たらない。落としたって訳でもないだろう。それはそれで登るときに気付く筈だ。あの化物が来る前に見つけ出さないと…。
「コレですか?捜し物は」
「誰だ…?この人」
「あぁ、ENFORCER。傷良くなったの?」
「えぇ、お蔭様で」
「実は事情が変わってね〜、ソイツ使わなきゃ駄目なんだ」
「そうですか」
「だからさ、ちょっと寄越してくれない?」
本当に仲間なのだろうか。年は…15?くらい。俗に言う美少女って奴か。眼の色も人を惹き付ける様な深紅――
「おい、女止めろ」
「え?」
「…どうしたんです?私が何かしましたか?」
「いいや…、ただ少し赤眼が気に入らないだけだ」
「コレは生まれ持ってこうなんです。仕方ありません」
「そいつは失礼」
「…ところでENFORCER、早く返してくれないかな」
明らかに先程とは空気感が違う。と言うかあの化物はどこだ?障壁がまだ溶けてないのか…?何故?
ふと、眠っているJOKERの頭が目に入る。アレは…、糸?いや、ピアノ線みたいだな。でもなんでそんな所に…。
「ノヴァ、JOKERの頭に付いてるアレはなんだ?」
「なんの事?」
「いや、あのピアノ線みたいな奴」
「んー…、そんなの付いてないよ?」
「私にもそんなの見えませんけど」
「いやいや、だってほらここに――」
線に触れた途端、何かが流れてくる。その手を離そうとしても出来ない。拘束も強制もされていない。
なのに、どうして?
分からない。




