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Slave Of The One-Eyes  作者: 軍団長マッスル
第七章 人外鬼畜のBREAKER
78/113

取り戻した破綻

人は孤独だ。

だから依存する。

人は無力だ。

だから群れる。

人は化物だ。

だから殺す事を楽しむ。


だが彼は違った。

孤独を知らず、群れる事も出来ず、殺す事を苦としない。

彼は壊れている。

だから惹かれたんだ。

その破綻に。


「…ぅあ、ッ」


小さな振動が連続して流れてくる。立ち上がろうと反射的に左手をつき、初めて気づく。左手が治っている。暫く倒れていたらしいが、どこだっけここ…。


「起きた?焔ちゃん」

「…ぇ、誰?」


ハッキリと思い出せない。記憶が曖昧になっている。確か、…あれ。何してたんだっけ…。誰か…、何が?


「厶ー君、止めて」

「分かった、そこのSEで良いな?」

「良いよ」


腕に何か着いている。鎖?って奴だろうか。

暫くすると振動が止まり、ムー君?が来る。見覚えのある顔。でも思い出せない。何かに止められている感じ。


「さて、焔ちゃん。凛はどこ?」

「凛…?」

「凛と言えば、あのライナーズじゃない」

「ライナー…ズ」

「少し案内するだけで良いんだ。それで用事は済む」

「このルカちゃんを失望させないでよ?」

「調子に乗るな“ルーシア”」

「痛っ、だってぇ…」


ルーシア…。そうだ、あの娘だ、ルーシアだ!記憶が戻ってきた衝撃で、少し足がふらつくが関係ない。凛に何かしようとしている。見極めなければならないな…。


「で、見つけてどうするって言うの?」

「勿論、殺す」

「…一体、凛が何したって言うんだ」

「嬢、それは――」

「良いよ、特別に教えてあげる。記憶操作なら仕方ない」


今年、2035年1月3日午前1時20分頃、サヅァリー地区7番街で起きた強盗犯。アレはムー君の兄、アルスファ・オーデイン。

彼が死んだと言うニュースは私達の国にも届いてね、それはそれは驚かれた。何故って?

彼は名家の力を使わず、民と戯れ、国を護り、それは信頼を超え家族とも呼べる様な存在になっていった。それは民も、王も、罪人さえも彼を愛し、彼もまたそれに応えた。

だから国はその死を訝しんだ。そして調査の結果、幾つかの不可解な点が存在した。

・何故死体を寄越さないのか

・何故強盗なのか

・近くにいた()()は誰なのか

聞いても知らぬ存ぜぬの一点張り。そこで、私達は最新鋭の機器、過去記憶可視化装置を使って、現地の部隊員達に試し、状況をプログラムして再現した。

見せてあげる。その空間を、本当の真実を。


爆発音が、少し遠めに聞こえる。事故の音だろうか。生憎ここからじゃ見えないが。


『ア…mア…」

「無差別汚染…!?」

『Z、ZJZZJAZYAJJAA!!』

「ムー君!」

「そんな急には出せねぇって!」


悲鳴を掻き消す様に、電磁起動音が響き渡る。逃げようとする人達を巻き込みながら、急発進し距離を取る。法定時速180kmを軽く超えて高速を逆走する。


「くッ、事故ったらどうする気!?」

「事故らなくても死ぬし良いじゃない」


スピードは出てるが、一向に離れている気がしない。火達磨の化け物が物凄いスピードで追いかけてくる。速さ自体は五分五分だが、高速もいずれ終わるしこれ以上被害は出せない。


「戦えないの?!」

「無茶言うな!コイツはそんな代物じゃねぇ!」

「磁力最大で飛ばして、ムー君!」

「2人そろって…、洒落くせぇってからに!」


ODからAEROにギアを入れ、アクセルペダルを思いっ切り踏み込む。速度が上がると共に、タイヤの空回り音が大きくなっていく。


「マズイッ…、助走が足りねぇ…!!」

「残量は?!」

「最高速で20km!それまでに何とかしろ!」

「焔、手伝って」

「…手伝わなきゃ死ぬんでしょ」


腕の鎖を融解させ、バックドアを蹴り破る。車の残骸の中から、あの化物が揺れながら立ち上がる。

化物の背中に、突然光輪が浮かび出す。R.E.Dに近いのか、もしくはR.E.Dそのものなのか。宙に浮き、上空まで一気に舞い上がる。


「ムー君、天井透かして!…ムー君?」


振り返ると、まるで予想外だと言わんばかりに目を見開き、画面を凝視している。モニターの文字は読めないが、恐らくあの化物。アレが原因なんだろう。


「…ハッキリと言おうか」

「な、何?ムー君」

「早くして!奴が来る!」


現実を受け入れる様に、ハッキリと言い放った。


「アレが…、目標(凛・ライナーズ)だ」

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