もう揃わない集合写真
勝負は一瞬。先に相手に届いた方の勝利。その一瞬が何千倍にも引き伸ばされる感覚。息が止まっているのか、喉奥が乾いていく。
その一瞬が、何故か懐かしい。
「…、分かってるさ」
伸ばしたゴムがその分縮む様に、決着の瞬間は認知出来なかった。左手が折れている。でも、それでも勝ったんだ。
あれ…、なんでこんなに霞んでるんだろ…。
「えっと…、結局何にやられたんだい?」
「分かんない」
「じゃあ人影とかは見たかい?」
「見てない」
こんな小さい娘の聞き込みなんて殆ど無いからな。それにしても、聞き方を工夫するのは基本じゃないのか?
「…どけ、俺がやるから」
「で、でも…」
「嬢ちゃん、俺は加瀬士って言うんだ。加瀬おじちゃんって呼んでくれ」
「加瀬…おじちゃん?」
「名前はなんて言うんだい」
「天廻…、おねぇちゃんがそう言ってた」
「そうか…、そのおねぇちゃんはどうしたんだ?」
「おねぇちゃんはお兄ちゃんの友達なの」
家主には交際相手が居たって意味なのか?言い方的にそうらしいが、どうも違いそうだな。あの家には女物の化粧品とかも無かったしな。
「お兄ちゃんは居なかったのか?」
「お兄ちゃんは仕事だって言ってた。帰ってきたらいっつもジャックちゃんに怒られるんだよ」
上の姉か。確か誰も血は繋がってないんだったな。呼ぶのに抵抗が無いって事は、結構な信頼関係があるんだな。
「お兄ちゃんの名前…、分かる?」
「えっとね…、あかさたなは…りん。凛って言ってた」
「凛?…なぁ天廻ちゃん」
「あ〜ちゃんで良いよ」
「あ〜ちゃん、もしかしてこんな顔じゃないか?」
カメラフォルダーから、写真を探して見せる。2032.5.20。時期がずれても綺麗に咲いた桜を背景に、記念として集合写真を撮ったあの日。
武藤、エスカ、セレナ、俺、田口、佐々実、姫華、凛。
そう言う時の予感は、この20年外れた事は無かった。
「…ルーシア」
『何?』
「マザーが壊れた。逃げるぞ」
誰かの喋り声が聞こえる
『…地道に探すしかないか』
「いや、この嬢は焔の奴だ。凛の事も知ってるだろう」
凛…、頑張ったよね。私は頑張ったよね…
『分かった、出発準備お願い』
「早めに来いよ」
『分ぁってるよ、うるさいな…』
だから…、だからさ…
慰めてよ…、早く泣かせてよ…!




