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Slave Of The One-Eyes  作者: 軍団長マッスル
第七章 人外鬼畜のBREAKER
74/113

私じゃない

凍える様な寒さ。

這う気力すら無い。

薄っすらと見える腕は、ビニール傘の様にか細い。

周りから漂い続ける煙草のニオイ。

咽ようとしても、その度に肺が止めようとしてくる。

どこからか聞こえてくる罵声。

急に体が浮き、そのまま――


『―――』


目を覚ますと、その空間は跡形もなく消えた。体を持ち上げられない事と気力以外は全て消え去った。だが、その後味の悪さは、暫く消えはしないだろう。何も()()()()のだから。


「准尉、情報統括センターになんて何しにきたんですか?」

「家主の素性と、ついでに妹の素性」

「そう簡単に渡すでしょうか?」

「その為の()()があるんだから」


受付を無視し、一気にデータ管理区域まで降りる。場所の変更はよく行われるが、あんな膨大な数のコアデータは人力ではすぐ動かせない。1つでも残っていれば、そこからマザーベースに接続してデータを覗く事が出来る。

まぁ全部武藤の受け売りだけど。


『この先へは生体検査登録者のみ通る事が出来ます』

「生体検査って何するんです?」

「360度上下左右からの全身の撮影、後は指紋、声紋、DNA。処女と童貞と性感帯。歩行癖から催眠猶予。後は…」

「いいです…、もう一杯一杯です…」

「まぁ、まともに通ろうとするとそうなるよね」


パスコードエンターキーを外し、先を熱しながら鍵穴に差し込む。鍵穴にも耐熱を施したのは向こうだ。私のせいじゃない。即席の鍵を造り、正面突破する。もうこの鍵穴は使えなくなったが、最悪ドアを融かせば問題無い。


『ご要件は?』

「操作協力だね。データアクセスを許可してほしいんだ」

『少々お待ち下さい』


エレベーターの降音がする。誰かが降りてきたらしい。こんな早くに許可しに来る事は絶対に無いから、多分見回りだろう。ザルだから問題ない筈。


「何か急用ですかな」

「えぇ、少し必要な情報が有りましてね」

「それはそれは。でも、知っておいでかな」

「関係者以外立入禁止。私達は()()()だから問題無いわ」


暫くの睨み合い。警備員如きが本職2人相手に勝てる道理も無いから強気でいられるが、戦闘中下手してマザーベースにでも触ったら怖い。


『申請が承認されました。お入り下さい』

「…だそうで。分かってくれた?」

「無闇に疑ってしまって悪かったよ。近頃物騒だからね」

「違いない」


足早にその場を立ち去る。あの一件以降、上層部はコッチの組織に逆らえなくなっている。不祥事が公にでもなれば、一気に失墜する政治家なんて沢山いるからな。


「私は家の方を調べるから、ソッチは家主達の情報を」

「了解です」


まだ何台か生きているのがあって良かった。紙媒体で探すのなんて時間がかかるだけだしね。ともかく、家の情報を片っ端から引き摺り出す。


築7年

契約日 2028.5.13

契約者 石破 願柳

一階 2LDK

二階 4

物件情報 事故、事件なし


「石破願柳の詳細確認を!」

「…、分かりました!石破願柳、出生日1975.2.9。享年、…享年!?」

「死亡日時は?!」

「えっと…、2033.9.24です!遺産相続人が家を受け取ったのは、丁度その1ヶ月前になっています」

「相続したのは誰?!」

「…出まし、ッ!?」


思わず口を噤んでしまう様な人間。まさかJOKERではないのか。いや、アレの正体はまだ特定出来ていない筈。じゃあ一体誰…?


「…識別ナンバーF15K-R03、ライナーズ」

「え…?」


血腥い不安定な足場。

綺麗に染め上がる丘陵と、それを乱す死体の山。

―知らない。

穢れきった自らの心。

―知らない。

もう引き返せない。

―知らない。

だから、未来永劫変わる事無く



正義()人間(オレ)を殺し続けよう。

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