慟哭
「では、俺はこれで」
「最近は物騒だからね。気を付けてくれ」
「ほら、テメェも行くぞ」
ずっと紅茶飲んでるのに、寝落ちしかけているバカタレの耳を引っ張る。物凄い喚くもんだから次第に目が覚めてきた。まぁ座ったらもう寝落ちするだろうがな。
「変態!悪趣味!ロリコン!ポップコーン!」
「ポップコーンってなんだよ」
「またいつでも遊びにおいで」
「じゃ、お言葉に甘えさせてもらいます」
今度はキチンと玄関から外へ出る。このバカタレは放っておけば勝手に事務所に帰るだろう。街に着いたくらいでやっと静かになったので、そこで別れて帰らせる。
少し遅くなってしまったので、コンビニのサラダで夕飯を済ませる。あまり美味しくは無い。贅沢は言えないが、ポテトサラダにカニカマを千切らずに乗せて欲しい。
そうして、家に着いたのは2時を回った近くだった。ドアを開けても人の気配がしない。夜遊びはしてないかの確認もそろそろ止めても良いかもな。
(風呂でも入って寝るか)
荷物を部屋に置いて、風呂に入る。風呂の水が冷たい。仕方がないのでシャワーだけにしておこう。それでも十分体は洗える。水の出が悪いので、そろそろ直してもらおう。
不意に指に痛みが疾走る。よくは見えないが、切り傷になっている。そんなに鋭利なモノ有ったか?
嫌な予感がする。
玄関、異状無し
廊下、異状無し
階段、異状無し
リビング、異状無し
キッチン、異状無し
物置、異状無し
どこもおかしい所は無い。でも拭えない不快感がする。
よくよく見ると、キッチンの洗い物が少ない。リビングには二人分の食事…、食事?食事ってのは食べ終わったら片付けるモノだ。しかも食べていた最中らしい。それでいて強盗とかの荒らした痕跡が無い。強盗じゃないなら、一体何なんだ…。
『―――――・―――――――』
流れ込む文字列。
『――――・――――』
知っている単語。
『KANNAGI』
聞こえてはいけない金属音。見上げてはならない拒絶心。頭痛でもなんでもいい。とにかく上を見てはいけない。
好奇心?
恐怖?
違う。
保身の為だ。
第六章 画竜点睛の絵描き主




