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Slave Of The One-Eyes  作者: 軍団長マッスル
第六章 画竜点睛の絵描き主
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監獄の渾沌

「…、武藤。跳ぶぞ」

「見えたか!?」

「いいや、別のだな…!」

「でもどうすんだ、俺らじゃ届かないぞ」

「いいから足場になれ!早くッ!」


その場で手を組み、待機する。凛の視力は殆ど無い。むしろ失明寸前だ。何故そんなに悪くなったのかは検討つくが、コンタクトレンズの度が異常に高い。10.5も人間には必要無い。


「どの位だ」

「20m付近で頼む」

「了解した」


そう言うと少し距離を取り、一気に走ってくる。そして一段目の跳躍で手の上に着地し、二弾目で一気に飛ばす。

振り返ると、空中で何かを掴んだらしい。抱える様な体勢で落下している。蒼く光る鎖が、紅く暗く光り始める。太陽すら霧が隠し、その光が微々たる物と化す。

地獄が有れば、この様なモノなのだろうか。折り重なった鎖の雲。紅暗く照らされる世界。

燦然と赫く生誕者(JOKER)が、幽界に降臨した。


「やっと、1つになれた。やっと、元に戻れたんだ」


語彙力が低下している…?いや、恐らく過負荷に耐えられていない。だがソレも時間の問題だ。完全に慣れられてしまえば、先までの思考能力を遥かに超える筈だ。

だが何だ?1つになれたとは、一体何の事だ。


「ふふ、武とぉ辰吉ぃ?だっけ」

「…覚えててもらえて光栄だね、JOKERさんよ」

「?じょぉかぁ?誰ぇ?それ」


本当に言っているのかコイツ?!間延びした言葉に騙されるなよ辰吉!抑えきれていない負の感情が判るだろ!

落ち着け…。まだ焦るな。コイツが俺に対し隙が無い以上、今は攻撃するな。取り敢えず、まだ――


「わたしの名前はねー、」


左胸に風が通る。遅れて聞こえる衝撃音。視界が反転する。込み上げてくる生臭い液体が何なのか、吐き出すまで理解出来なかった。


「イグジスト・オーディエンス。冥土の手土産にどうぞ」


俯せに倒れる。痛みに喘ぎながら左胸を擦る度に、力加減ができず掻き毟る事となる。そのせいで傷が更に広がり、更に血が流れていく。

精神的に幼い印象は、本能的に攻撃を鈍らせる。抗えない人間(武藤)は、完全に餌食となった。


「?…即死じゃないのか、ちょっと意外だな」


まぁほっとけば良いか、と呟きながら辺りを見回す。ふざけるな、開けるだけ開けて置いて何を言っているんだ。恨みじゃない、怒りじゃない。

俺に出来るのは時間稼ぎだ。傷は癒えない。俺は普通の人間だ。死ぬ時は死ぬし、殺す時は生かす手段を考える。だから俺は――


「あッ…ぐぅ、ッ待ちやがれ…、まだッ」

「黙っててワンちゃん」


右肩に鋭痛。体の内側から引き裂かれる様な、突き刺される様な痛み。投げられた氷が掠めて行った様な痒みが、体中に疾走る。その痒みの直後、先の鋭痛が遅れて発現する。出血は既に致死量を超え、それでもまだ体は動く。

驚いた様な、怯える様な眼をしている。何故動けるのか、何故生きているのか、何故殺せないのか。考えても判らないだろう。そりゃあそうだ、俺は普通の人間。アイツ()の様に強くて不死身な訳じゃない。エスカの様に理不尽で能力がある訳でもない。


「まだ…俺は――」

「くッ!!」


何かが砕ける音がする。出血は乾き、その眼に映るのは自らの心臓。鼓動が聞こえる。拍動が多くなる。塞がりかけた傷跡から残り屑が吹き出る。更に鼓動が聞こえにくくなる。

それでも良い。今必要なのは力だ。奴らを待てるだけの力が必要なんだ…!!


「―血液循環速度上昇(ルート・アップ)


 ―潜在記憶技能習得(メモリー・アップ)


 ―身体系耐久力上昇(フィジカル・アップ)


 ―無限器官生成開始(イマジナリ・アップ)


行くぜ…、いや、保たせてみせるさ…!」

「今直ぐその首、貰って行くッ!!」


動かぬ体を死に急がせ、死ねぬ人形と化す。だが死なぬ、まだ生きるべきと思うなら。奴らを待てるのは誰だ、俺だけだ。信じられるからこそ捨身が出来るんだ。だから、俺は待てるんだ…!


無価値の開門(ドルフィンズ)

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