生誕否定
少し前…
「おい、ENFORCER。勝算は」
「有るから従ってるんです。貴方達戦闘狂と一緒にしないで下さい、面倒なので」
「そんな物かねぇ」
「そんな物です」
何か出会う度に無礼が増してくるのは何故なんだ畜生め。JOKERを何とか出来るのはENFORCERと青髪だけだからな…。これくらい目を瞑らないと機嫌が良くならない。
「それにしても、よく出て来ませんね」
「アイツからしたら変わらないんだろうよ。…恐らく、俺らの作戦が筒抜けだかなんだか知らんが、お前が来る事は知ってるらしいからな」
恐ろしく頭まで回ってやがるしな…。障壁を閉じたのは、未龍との干渉を避ける為だろうし、気付いていると言うアピールも有るかもしれない。何が言いたいかって事は、結局人間なんだなって。
「着いたぞ。…一応援護はするが、期待はするな」
「始めから有りませんよ」
最悪だなこの女。性格が根本から歪みきってる。俺が嫌いなタイプに他ならねぇや。
最前防護壁を解錠する。真冬の感覚だ。喉の奥が貼り付くような、乾いていく感覚だ。乾燥した空気は、電子を貯めるのに最適な環境だと思っている。
その空気の中、空間が薄く渦を巻くように見える存在があった。電子が可視化されている様に思える程に、その存在感があった。
「やっと、来てくれたんだね」
「えぇ、修正しないといけないですから」
「貴方も来てくれたんだ、武藤さん?」
「直接対面は久し振りかな…。前は親父としか対面してないし」
「あの腐れ親父は来ないよ。だから…」
空間が物質化していく。ブロックを組み立てる様に、剣が柄の方から徐々に出来上がっていく。と同時に、空中に砲台が、体に装甲が組み立てられる。
まるで芸術だ、命が掛かってなかったら称賛物だってのによ畜生…。
「ここまで来たって事は、勝算は有るらしい」
「まぁ、ね。じゃなきゃ、俺もコイツもとっくに逃げてるからな」
「給料はしっかり払って下さいよ、私も生きてるんですから」
生きて帰れるかが分からねぇのに、よくもそんな事が言えたな。まぁ、しっかりやれば払うけど。
「…アイツがこっちに来る前に、さっさとケリ付けようか」
ENFORCERが踏み込む。そのまま剣を薙ぎ払おうとした刹那、急に仰け反る。見ると、先程まで頭があった場所に弾丸が飛ばされている。あの砲台は、そんな小細工の為に造ったのか?
流石に防戦が始まってしまう。しかしそれは負けに近付く。弾丸などいつまでも避けれるモノでは無い。何とかして砲台を破壊しなければならない。
いや、果たしてそうだろうか。アレは無から作られた。つまりいくら破壊しようが無駄ではないか。しかしさっきの状態を見る限り、再構築まで時間が掛かるのだろう。…それに賭けるしか援護が出来ない!
「…、」
「ッ!!」
間一髪の所で弾道を反らす。昔から石とか網なんかは当たらなかった。だが弾丸となると厄介だ。アレは投擲物じゃ無い。弾道が見えはするが、あくまでも見えるだけである。避けるのは自分の意思しかない。
「背中に目でも付いてんのか…?畜生め…」
あの砲台自体が判断しているのだろう。少なくとも近距離に関しては、何かセンサーの様な物が付いているに違いない。今の手持ちでは、遠距離からの破壊は不可能。
「意外と無傷なんですね」
「伊達に対人してねぇからな…、畜生…」
「あんまりそう悲観する事はないですよ」
何となく言おうとしている事は判っている。だが、現実にソレがない以上何を言っても無駄だ。
「…そうですか、残念」
左右に跳び退き、一気に距離を詰める。左右からの攻撃は、戦闘慣れすればする程耐性が付く。本人も意識してないのにも関わらず、素人の拳を読むのと原理としては一緒だ。現実として、上体が少しずつ動くのが分かる。
だがソレは原理としてだけだ。
「…ッ!?」
人間には考える脳がある。世界がループしないのも、その杜撰な人間のせいだ。前通じたから今も通じるなんて、思考が甘いとしか言い様が無い。
確かに俺は左手側から攻撃した。だがあくまで攻撃開始が左手側である。ド直球に攻撃する馬鹿はただの命知らずなだけだ。背中側の固定器具らしき鎖を引き千切る。確かに気休めにしかならないが、この気休めが戦力として変換される。
「さぁ、続きをしようや――」
突如、障壁が崩壊する。黒い影が蛸の様に蠢いていた。




