逃げ出した後、
間合いを詰める。
徒手空拳で、READERがNUCLEARに勝つ可能性はほぼ0%に等しい。先ず自らの犠牲心が全く持って比較にならない。
だが向こうは、自らが砕けても問題が無いと判断している。READERは自己修復が出来るが、NUCLEARは出来ない。つまり、先に音を上げるのはNUCLEARなのだ。
前回、殺害した時にNUCLEARは気づいていた。首を捻切られたくらいじゃ、再生者は死なない。体質的になら死ぬが、後天的に、しかも能力として組み込まれていれば死ぬ事は無い。だが奴は一度死んだ。
「ぐッ、!」
確かに戦闘技術だけなら、NUCLEARの方が何歩も先に居るだろう。だが、それ等全てを動員しても、尚追い付けない。全てが見切られる、いや全てが予定されているが如く。
「まだ動けるでしょう?」
「出来損ない風情がよ…、私より上なつもりなのかな…!」
体中に電撃が走る。しかしソレを電撃と言うには余りにも貧相だった。凛には遠く及ばず、静電気よりも少し弱いくらいだった。勿論、READERにも見えては居ないし、攻撃に利用なんて出来る筈もない。
「雷獣…!」
「貧相なのは心だけにしときなさい」
「アンタには貧相の何たるか、一生解らねぇよ…!」
先程よりも速く、正確に、より強く踏み込んでの攻撃。しかしソレすらも躱される。未来予知でもしているのなら勝ち目など無い。だが、予知が出来るのならもう少し余裕があっても良いんじゃないか?
「――!」
初めての打撃。やはり素体は弱いのだ。殴られた頭部から中身が見え隠れしている。直ぐに見えなくはなるが、痛覚とか無いのだろうか。
「…なる程、ネタが見えては来たね」
地面を内側から爆破する。土煙どころか、ミミズとかも降ってくるがお構いなしだ。いつもなら、この隙を付いて背後から確殺するのだが、そのまま正面から突っ切る。
やはり思った通りだ。居もしない背後へ、しかも攻撃に移していれば反撃される位置へ攻撃している。
「どうやってかは判らないけど、大体は予測出来る。私の戦闘技術を憑依し、それと同等まで引き上げる力。所詮その程度よ。凛にも私にも辿り着けない、中途半端な出来損ないよ」
口内へ手を突っ込みながら言ったので、抗議しようにも出来ないだろうに。そのまま喉を手が貫通する。噛む力なんて残る筈も無く、酸欠状態に陥っている。
「アンタを殺すには再生出来ないくらい木っ端微塵にされるか、再生限界が来るまで殺され続けるか。2つに1つ。
ソレを選ぶ決定権は私が握っている。だからアンタは殺されるまで大人しく、このまま喉の再生を繰り返し続ければいい」
だが、胸に残る不信感が湧いて止まなかった。
酷い有様だ。街中に死体が溢れている。大きな教会の天井に、穴が空いているのがよく見える。一先ずそこへ行ってみよう。
等と思ったのが間違いだった。
そこに広がっていたのは、首が無くなっている神父を中心とした、絵画の様だった。紅く暗く壁に広がる世界。微かに残る腐臭。そして、砕けた偶像の首の上に佇む――
神聖簒奪者が。
第五章 覚醒無垢の簒奪者




