月掛
「…こいつを見てくれ」
「なになに…」
DNA配列と血中成分表か。確かにコレで人間じゃ無かったらおかしな数値が出るからな。…意外とまともだった。
「…で、こんな医学知識ないと分からない物見せてどうするんだ」
「…DNAの方は通常の人間と同じ配列をしていたんだが、どうも血液の方が異常値を示していたんでな」
「…ちょっと待て、血液なんていつ採った。少なくともなのカップからは採れていない筈だ」
「そこのドアノブを見てみろ」
言われるがままドアノブを触る。すると微かだが赤く染まっている部分がある。
「此方の方が、抵抗なく低コストで採れるからな。設置してある」
「最悪だなこのジジイ」
「何が異常値なんだ?」
「どうも血液の鉄分が常人の8倍だったんだ」
「ドアノブの鉄じゃなくて?」
「ドアノブはプラスチックじゃい。ともかく人間ではあるが、常人では無いと言うのが結論だ」
血液の鉄分って言ったらヘモグロビンとかかな。それが多いのなら酸素効率も良いのかも知れない。標高が高い所で生活できる様になったのか、水中での長期の潜航用か。…本人は知らなそうだな。
「…これから金子の所へ行くのか」
「ん?ああ、そうだけど」
「何だと?金子だと?」
「ジジイ知ってるの?」
「知っとるも何も、儂らをここに追いやったのは奴等だぞ」
「追いやった?日当たりも良いのに」
「…話してやる」
―儂らは未龍の調査、及び神話の調査をしていたんだ。しかし儂らだけの力では成果は挙げられん。たとえ国家直属だとしても。
―そこで頼ったのが、金子元情報統括係長だ。奴は儂らに支援をし、その手柄の1割を寄越せと言った。そもそも金を得る物では無いから了承はした。
―更に研究が進むと、…ある意味、乗っ取りとも思える行動を起こす者が出た。そこまでは予想の範疇だ。誰しも発見は自分の物にしたいからな。
「ちょっと待ってくれ。国でも出来ない物をどうして出来るんだ」
「…奴はこの国の者では無い」
「…うん、まぁそれは俺らもだけど」
「あのアプリスチアの人間だ。それも旧型だ」
「はぁ!?」
アプリスチアは、昔乗っ取りをされた国家だ。国名をフィアンフィオリアと言う。元々のアプリスチアは暴力団やマフィアとは違う、本物の武力組織だった。乗っ取ったのは、…記憶に間違いが無ければ分家だ。その分家の人間なのか…?
「金子…、島金子。アプリスチアの分家三番手だ」
「三番手って…、あの弱そうな見た目で?」
「奴の専門は外交。今もこの国を乗っ取ろうと画策しているだろう」
「…もしかして!それが原因…?」
「恐らくな。…事実奴は情報統括センターの長となった」
証拠さえあれば抑えられる真っ黒野郎だな…。分家か、本家。どっちに行くかな…。
「取り敢えずアプリスチアに殴り込みに行ければ――」
「止めろ!それだけはしてはならんッ!」
「知ってるよ、…俺らは国から目つけられてるからな」
「…奴に会うなら聞き出せ。神を知っているかと」
「んー…、気が向いたらな」
「俺も行こう」
「いや、お前は元から行かせようとしてたけど」
「は?」
「じゃ、ジジイまたな。また話の続き聞かせてくれよ。…興味無いけど」
「ジジイと呼ぶのを止めたらな」
「はいはい」
今度こそ対象を連れて金子に会いに行く。…邪魔は居ねぇよな?
「ほら立て、行くぞ」
「どこに?」
「お前に会いたそうにしてる奴さ」