諸刃
悲鳴の様な咆哮が轟く。刃は母親の外殻を貫き、子供の肉まで突き刺さったのだろう。だが母親には痛覚や機能不全なんて存在しないかの様に、飛行を開始した。やはり予想通り、一度高く飛翔し、そこから落下している。これじゃ子供に掛かる負担が大き過ぎるな。
剣を突き刺したは良いものの、今度はその外殻に阻まれて抜けなくなってしまった。力づくで引き抜こうとするが、びくともしない。確かに素手でも殺れそうな雰囲気はあるが、地上戦だけだ。空中でなんて戦えない。今だって剣にしがみついているのがやっとだ。引き抜こうとする手を止める。
「あと5分くらいか…!」
重力を浮力が上回り出した。早く決着を着けなければ、このまま街に被害が及ぶ。殺せば死体は空中で消滅してくれる。
剣を握り直し、走る体制に、いや跳ぶ体制に向きを変える。少しずつ地面と垂直に落ち始める足場を利用する。全体重と重力を使って、外殻ごと脊髄を断つ。虫の脊髄なんてどこにあるか分からないが、中の子供の脊髄なら大体予想はつく。ついでにそのまま頭蓋を叩き切れば、そんな物関係ない。
上へ勢いをつけ跳ぶ。浮力に任せ、いつもより高く跳び上がった。問題は、ここからどうやって下へ行くかだ。時間に任せれば、俺より向こうの方が速い。だったら、別の物で無理にでもスピードを上げればいい。
「曲射赤銅…、落下ッ!!」
曲射系魔法、物体を利用しそれ以外の重力を弄る魔法。赤銅はその最底辺。コレばっかりは才能だから仕方が無いし、どれだけ頑張っても赤銅は赤銅。だが魔法用の素材が安いから簡単に大量に使えるのも便利だがな。
落下は、その赤銅自体を落下させる魔法。だが落下時に物は貫通できないし、当たった瞬間エネルギーが全て移る。最大速度は時速180km。コレなら追いつけるし、落下の威力も増す。科学論理では辿り着けない世界だ。
刺さっている剣に照準を合わせる。少しでもズレたら駄目だ。柄先では剣が折れ、柄本では斜めに斬れる。つまり柄元。その一点を狙って蹴り落とす。
「ぐッ、ぬァアアあッ!!」
柄が足裏に刺さったらしい。だが勢いを緩めるな。体制を崩すな。足が切れたって、エネルギーは伝わるんだ。そう、曲射赤銅の様に…!
咆哮が轟いた様に聞こえたが、幻聴だ。声帯は斬られている。つまり、勝った。頭蓋が見え、切断面も見えている。所々蒸発も始めている。あの母親の亀裂の入った外殻では落下にも耐えられないだろう。
太腿が痛い。見なくても分かる。柄がそこまで入り込んでいる。暫くは歩けなくなりそうだ。まぁ、数分の話だがな。この気持ち悪い回復力も、役にはたったな。
上向きの曲射を使ってから、意識が薄れていった。




