途虫
「心の準備くらいさせてくれよ…!」
触角をターザンロープの様に加速させ、頭の上に跳び乗る。子供はそれに気付き、その頭を振り回すが、肝心の母親が全くと言っていい程意に介さないから、足場としては殆ど揺れない。
「後でゆっくり遊んでやるから、ちょっとだけ待ってろ」
その足場を踏んで跳び上がる。下を見ると、少しずつ母親が裂けてきている。このまま行って、子供が産まれるだけで済むのならいいが、中身がバッタぽく無い。そして母親がまだ生きている。ホントにどうなっているのだ。
あんなにデカい子を身籠って、内臓がまだ有る保証すらない。もしかして本当に不死身なのか?
「ぁ…」
随分と高く跳び過ぎたが、無事に辿り着いた。空中で静止し落下を始める直後、左腕を引き千切り、その左腕を計算して蹴る。軌道が下から斜め下になり、ENFORCERのいる本部に硝子を貫いて侵入する。
「おい!警備隊は何をしている!」
その言葉と同時に、本来の扉が蹴り破られる。大量の煙の中から、見覚えのある男が警備服の男を引き摺ってくる。
「奇襲戦法に適しまくってるよな、ココは」
煙幕で撹乱し、その隙に気絶させる。いわゆるロマン型ですね、全くの無駄だから気をつけた方が良い。
「武藤、ENFORCERを連れて先に行ってくれ」
「お前は?」
「そりゃあ勿論――」
天井部分が一瞬で吹き飛んだ。振り返って見ると、顔の辺りに血が滲んでいるのが分かる。突進でもして、激突したのか。自業自得、俺のせいでも無いし、アイツの勝手な被害妄想だな。
「…なる程、行くぞ」
「待って!それは――」
「いいから行けッ!早くッ!!」
片腕でも問題は無い。こんな感じの化け物相手が専門なんだ。人間相手よりもずっと楽だ。武藤からすれば、化け物の方が嫌だとか言いそうだけどな。
「早くッ、ソイツを撃ってっ!!」
「いいから黙って下に行け!アイツの方が先決だ!」
「駄目ッ!早く、早く…!」
「ッ!?凛!」
振り返るより少し早く、その異形は羽撃きを始めた。あの巨体だ、自由に飛ぶ事すらままならないだろう。つまり、向いている方角に飛ぶ訳だ。その方角は…。
「逃がす訳ねぇだろテメェッ!!」
考えるより先に体が動いた。向いている方角、南南東には街があった筈だ。つまりそこに降り立てば、一般人の被害が多く出てしまう。そして遅かれ早かれその子供は這い出し、更に被害を生んでいく。
羽の付け根に剣を突き刺す。巻き込まれたら粉微塵だが、体が大きい為に付け根同士の距離が3m程あった。
「お前に地面を歩かせるかよ、死に損ないの弱虫野郎」




