R.E.D
階段を上がって奥の左側に談話室が有るらしい。と言うのも、警備員と関係者以外立ち入り禁止の場所なのだ。恐らくウチの馬鹿共みたいな奴らが騒ぐと、国交に不具合が生じる可能性が有るからか。
「武藤、どう考えたって少な過ぎやしねぇか?」
『恐らく保身の為に引き抜いたんだろう。JOKERに襲われた時、真っ先に逃げれるようにな』
外道の考える事の様に聞こえるが、俺は正しいと思う。だってそれがアイツらの仕事だろ?自ら望んで死にに行くんだ。本望とまではいかないが、予想していた運命だろう。
『窓の下に解錠コードが有る、それを使え』
「んな物必要ねぇよッ!」
談話室の椅子を思いっ切り投げつける。椅子側は無傷だが、硝子側は完全に砕け散りました。まぁ戦闘の余波とでも言えば良いし?そもそも俺は戦ってる扱いだし?
て言うかそもそも電気来てないから開かなくね?
『そのまま上に三階分だ!しくじったら俺達全員死ぬからな!』
「はいはい分かってますよーだ」
直後、後ろで爆音が鳴り響く。ドーム状の壁が出来上がっている事を踏まえると、恐らく障壁が作動したのだろう。作戦には無いぞそんな事…。
「武藤!障壁が作動してるぞ!」
『あの馬鹿共何考えてやがる…?!』
「武藤!奴らが起動場所に居ないぞ!」
『…いや、変更だ。奪還作戦を少しだけ変更する。お前は奪還後、JOKERと対峙して時間を稼げ!』
「お前は何するんだ!」
『お呼びじゃねぇのが来てんだよ…!!』
微かに腐敗している臭い。小型の未龍が大量に向かって来ている。それだけならまだ何とかなるだろう。JOKERも邪魔者は殺したい筈だ。だがそれだけで、こんな高所まで臭いが届くのか?大型種なんて見えないぞ…。
「分かった、それで行こう。…武藤?武藤、ッ!?」
徐々に変わっていくから気がつかなかった。いつの間にか影の下なのだ。だがおかしい。向こうの建物の影はコチラへ伸びているのに、足元の影は前に伸びている。それが意味するのは唯一、だが見上げる事が出来ない。今捕まっている紐でさえ千切れそうなのに…、紐?
今回の装備に紐なんて入っていない。70°くらいの屋根を登るのだ。そんな物必要ない。つまりこの紐は…!
「く、ッぁ…!」
反射的に上を見てしまった。その紐の様な物は黒く光って垂れ下がり、異形の化け物に繋がっていた。
蜻蛉の様な羽かと思えば、バッタの様にも見える。ただ確実なのは、羽の材質が金属系統の物である事。胴体は体の比率上は異常なまでに短く、2:1:9くらいの大きさなのだ。
全体的なフォルムは、よく原っぱなので見つけるショウジョウバッタの様で有るが、足が腹から生え、そしてその腹から頭にかけて、まるで子を授かっている様に膨らんでいるのだ。本体よりも中の子供の方が大きいのか。
だがそれよりも奇怪で、そして恐ろしい物があった。
頭が左右非対称で内側から開かれた様な見た目をし、中身まで見えているというのに、羽ばたき、脚を奮わせ、本物の頭の様な物が蠢く姿。
寄生では無い。それでいて共生でもない。そう、頭が裂けている本体が、あの頭を出している黒煙の化け物の母親なのだろう。
その異形を見た人々は後にこう言ったのだ――
頭裂




