認識不足
「へぇ…言うじゃない」
内面が凍り付いている様な笑いを見せる。その怒りに呼応しているのか、瞳がより一層輝き始め、鎖にヒビが入り始めた。
「水鳥。前から思ってたけれど、やっぱり気にいらないね」
「私としては、気にしないから問題無いがな」
「反逆者は即刻処刑だって、知ってるでしょ?」
「だから私が来てやったのだ」
JOKERの味方の素振りを見せない。かと言って、俺達の味方でも無い様な振る舞いをする。共通の敵を持って、かつ同士討ちを狙い合うと捉えるなら…。
「係長!頼んだ!」
特五の係長にENFORCERを投げる。女とは言え、少なくとも30kgは有るのに受け取れなんて、結構酷かも知れないがしかたが無い。しっかり受け取ってくれたから良しとしよう。
「武藤!パテル!ちょっと頼んだ!」
作戦理解に時間は必要ない。武藤は呼ばれただけで作戦を理解し、ボタンを押す。
「凛!間違っても逃げんなよ」
「そんな薄情な事するかボケ!」
本部から出た瞬間、透明な金属質で出来たドームが構成される。恐らくコレが、JOKERに対する対抗策。俺達の中で、対峙し戦闘したアイツだから考えついた秘策。
「係長さんは、その娘を持って逃げて下さい!出来るだけ地下が良い」
「我々に逃げろと言――」
「黙れ三下ッ!!今はテメェとなんて話してねぇんだよ!」
「…作戦内容は」
「アイツらが時間を稼ぎます。その内に全部隊を後退させ、どこでも良いから通電性が低い場所で迎え討ちます」
「捨てる覚悟は――」
「そんな覚悟は捨てて来ましたよ」
暫くの沈黙の後、係長は回線を開いた。
「…本部の地下訓練場に引き摺り込む。そうすれば上だって戦わざるをえんだろう」
「頼みました…!」
「二回忌がそろそろなんだ。行かないと怒られるぞ」
「…了解です」
特五を任せ、来た道を戻る。障壁を時間逸脱、不甲斐ない戦闘をしている武藤達の為、後ろから不意討ちを仕掛ける。
「生きてるよな、武藤」
「今ので死にそうなんだが」
「…、水鳥はどこだ!!」
「アレだ」
磔にされ、体に刃物が刺さり過ぎて原型が見えなくなっているが、血が流れている。頭数が減ったのは良いが、本当に死んでいるのか?いや、死んでいたとしても動くかも知れない。いずれにせよ、嫌な感じは残っている。
「そりゃ、アイツがまだ生きてるからか」
JOKERがパテルと戦っているのが見えた。右腕の鎖が完全に断ち切られ、眼は赤黒いと言うか、白みが射してきている。
「今加勢は止めておけ。アイツらが自分のペースに持っていければ、足止め所か捕縛すら出来る筈だ」
未来にならなくても判る。アイツらは勝てない。確かに俺一人より部隊の方が強いに決まっている。それでも勝てない。一度敗けた恐怖からなのか、勝たせたく無いのか。
「そうか…、ッ!!パテル!散開しろ!」
明らかに判断が遅れての散開。ソレを見、逃げ遅れた者が掴まれる。JOKERはソレを不愉快そうに見ていた。
「凛!何で散開なんて、…!」
磔にされていた者の顔は、潰れていてよく見えなかった。だから見落としていたのだ。
その腕には紛れも無い、隊長布が巻かれていた。




