戦略的逃亡
「武藤離れろ!」
俺の言葉よりも前に、目の前からJOKERが消える。一歩進む度に、白熱灯が点滅する。圧倒的な存在感では無く、圧倒的な威圧が疾る。
「やっぱり来たね、武藤辰吉」
「俺は会うとは思わなかったけどな」
二人が話している間に逃げようとするが、一本道かつ挟まれている為逃げ道が無い。こうなればまた下へ行くしか無いが、それでは撒けないどころか逆にこっちが迷ってしまう。
「おい、武藤。ここにはどのくらい来ているんだ」
「リヴェルとパテルしか来てないな。どっちにしても、ソイツを連れて逃げるしか無い」
「負傷者と餓鬼とゴリラでアレに勝てると思うか?」
「無理だろうな、つまり――」
注射器を手渡され、流れる様に打ち込む。アドレナリン分泌剤(違法)と思ってくれて良い。気分と共に動体視力が気持ち上がる。
「おいゴリラ。お前身代わりィッ!!」
背中側から突然蹴っ飛ばされる。もう何か死亡フラグを建てられそうなんですけど。まだ若いから死にたく無いんですけど?
「お前の意志は受け取った!先逃げとくわ!」
「…言ってません。一言もそんな事言ってません」
かの有名な『俺を置いて先に行け』ってやつ?冗談抜きで性格歪んでるだろあのゴリラ。
「大人しく待ってたけど、待つ必要も無かったね」
「俺まだ若いから死にたく無いんですけど」
「武藤さんは後でしっかりトドメを刺してくるから。先ずは、ライナーズからって決めたしね」
「さいですか」
この状況を脱するには…、アレしか無いか。
「最後に一つ、言わせてくれないか?10秒で良い」
「…良いよ、最期の命乞いをしてくれるならね」
そう、こんな時にこそ、賭けをしなきゃ駄目だ。恐ろしいくらい静かな室内しか使えない秘策。ゆっくりと撃鉄を起こし、銃口を自分に向ける。
「ありがとうよ、待ってくれてさッ!!」
一気に相手の方へ発砲する。流石だと評すべきか肩を掠めていくだけだった。だが俺はそんな弾、元から当てるつもりなんて無い。寧ろ避けて注意が逸れた事に喜ばねぇとな。
「女の子に手を上げるとか最低だね…」
「俺はそんな事に興味無いがな」
響き渡る音を聞き、把握し、そして計算する。不審に思われる前に早く逃げるしかない。マトモに戦うなんて自殺行為は絶対にしない。
「じゃあな、JOKER。時間逸脱」
第三章 正体不明のNumbers




