隻眼
「スタッと着地完了」
誰も居ない空間に響き渡るイタい言葉。自らに直接返ってくるから、精神的ダメージが大きい。
「それにしても、誰も居ないのはおかしいよなぁ」
防犯カメラのランプも点いていない。つまり、何かしらの理由で止めているか、止められたかだな。先程の放送後に消された可能性が高い。
「…ん?発砲音か?」
正確な位置は分からないが、銃を持っている奴が居る訳だ。流石に弾丸が頭行ったら死ぬからな…。用心しよ。
「居たぞ!侵入者だ!」
「ふぇ?」
来た道を戻り、ダクトに入り込む。コレで場は凌げそうだが、発砲音がまだ気になる自分が居る。あの音は、今追ってきてた奴らとは違う音だ。何かしら別部隊同士が手を組む要因が有ったのか、それとも個人所有なのか。個人所有だったら全員お縄です。
「よっと。あんなに叫ばれちゃ捜索出来んな…。ま、見付かったら逃げるし良いか」
そんな弱音を吐きながら、ようやく先程の目的地に着いた。先とは打って変わって音がしない。ドアも半開きなので鍵も掛けてないのか。
「お邪魔しまーせ…」
音を殺して入り込む。電気は消え、床は赤黒く染まり、クニュクニュしている。確かに撃ち合えば血も飛ぶし肉も飛ぶ。しかし、肝心の死体がどこにも無い。床を満遍なく染め、尚余りある量はこの部屋に収まる人間の数では無理だ。
「…どういう事だ?」
「やっと来たね、BREAKER。遅かった?」
声と同時に、部屋の真ん中にライトが当たる。声も雰囲気も知らない人間が、自分の事を知っているのは余り良い気分じゃない。と言うか嫌だ。
「自分の名前くらい、言ったらどうだ?」
「CODENAME:JOKER。貴方の仲間、武藤辰吉を殺した本人だよ」
「?…あぁ、そう言う事か。そうか、それに関してはどうでも良いんだ」
「…薄情な人だね」
「良いや?コレでも仲間は大切にする人間だぜ、俺は」
そう、武藤については今どうでも良い情報だった。ただ、その殺したと言う情報の方が有益だった。…いや、この場合は、有益だが最悪って所だな。
「…最悪だ。まさか、そんな結論を出すのが俺なのがもっと癪だ。まぁ、ブチ切れないだけマシか…」
「なんか同じ感じがするね。私と貴方」
「勝手に言ってろ、胸無し野郎」
Aカップだし。ほぼ無いのと同じだし。見ただけで長さが分かるって、挑発に便利だと思う。現にキレかけてる。精神的にはまだ餓鬼って所か。
「まぁ、アイツの情報なんて信じなくて正解だったな。現に今だって――」
ソレを見て、世界の色が反転する。そう、現に今まで容姿に何てそれ程執着していなかった。
居る筈のない隻眼の少女が、現実として存在していた。




