時間逸脱
「ここです」
「何も無い殺風景な丘やな…」
「…まだ木が生えてるだけマシです」
木なんか生えてたって、何も無いのと一緒だと思うけどなぁ。人間が手を加えられないレベルで自己完結してるからな、コレ。手入れとか無いんだろうか。
「しっかし、歩き難くて仕方無いな…」
「第3次世界大戦の後、骨をしっかり拾わなかった人達のせいですよ?」
「…やめろ、俺みたいな目で見るな」
そもそも参加すらして無いしな、出来ないし。一応遺骨は、復元不可能の奴以外は全て返されたって話だ。ただし、その全てが遺骨って言うのもおかしいよなぁ。
「ここです。じゃあ、終わるまで待っていて下さい」
「ちょっとだけ入らせてくれよ〜、凍え死んじまう」
「別に死のうと知ったこっちゃないです」
「鬼!悪魔!燃えないゴミ!」
言い合っている間に、こっそり盗聴器を取り付ける。何か、本能的に嫌な感じが扉の奥からする。生理的にとか、心情的にとかじゃ無い。純粋に、会っちゃいけない気配がする。
「チッ…、飽きたから帰る」
「一人で帰れるんですか?」
言葉に詰まる。確かに一人では帰れないけども、人には言われたくない事だって有ると思うんだ。
「会員証を、お見せください」
「はい」
「…少々、お待ち下さい」
「では、大人しく待っていて下さい」
「お先にお進み下さい」
「バーカ、動いたら死ぬのは俺なんだ。…大人しくしてるよ」
表面上でも嘘を付く。盗聴してる時点で大人しくはしてないからな。いざとなったら通報も厭わん男よ、俺。
「さってぇと、何が聞こえるかな…?」
『えぇ、玄関に置いてきました』
『…』
『名前ですか?凛様ですが』
『…』
『でも、彼をここに何てとても…』
ふむ、俺を連れて来いとか何とか言っているのだろう。ならば、俺の新技披露会として持ってこいじゃねぇか。
「…X軸3m、Y軸5m、Z軸80m…。TARGET・ROCK」
精神を体から浮かせ、全身の力を抜き、自分はそこに居ると信じる。動物は動きを止め、流れる川は凍り付き、大気すらも静止する。
「時間逸脱」
辺りの人の視線が、自分へと向けられる。そりゃそうだな、突如として素晴らしい人間が瞬間移動して来たんだからな。理解理解。
「…凛・ライナーズ殿とお見受けする」
「あぁ、そうだ」
「教祖様が、貴公に会いたいと仰っておられる」
「…いいぜ、暇だし」
教祖様ってのが物凄く気に入らないが、まぁ付いて行って問題は無いだろう。




