偽・虚数
「初対面なら…、名前くらい名乗ったってっ、良いんじゃねぇか?」
体が動かない。確かに、振り切るのに物凄い負担を掛けたからな。これくらいの反動は来るか…。
「よし、治った」
「ENFORCER、と呼んでください」
「俺の名前は知ってんのか?」
「はい、存じ上げております」
何か堅苦しいと言うか、言葉遣いおかしいと言うか…。人に言えた事でも無いんだがな。
「じゃあ質問するぞ。どうして衝撃が来ないんだ?核兵器だぞ」
「辺りを見回してみてください。聡明な貴方なら、理解できますよ」
煙が空中で止まっている。それどころか、炎も熱さを失っている。本来あり得ない事が起こりうる可能性としたら…。
「虚数空間か」
「それに近しい物です。貴方も一度体現しかけた筈」
「…確かに。一回だけあったな」
「ここでは少し話しづらいので、移動させていただけないでしょうか」
「取り敢えず外には出なきゃな」
そう言って出口から出れたのは、約2時間後の事だった。
「では、解除します」
「おぉう、急に戻るのな」
コレで落ち着いて話ができる。やっぱり現実が一番だな。
「で、どこの者だ?恩人だが、返答によっちゃ詳しく聞かんといけん」
「…イデアシアの特使です。まぁ、そんなに認知なんてされてませんが」
「捻くれてんな」
確かにテレビで特使がどうとか言ってたような気がする。
「JOKERはどこだ?」
「彼女は立ち去りました。彼も無事です」
「彼?…どっちの事だ?」
「武藤辰吉さんの方です。彼とも少し、お話したいのですが…」
「それは仕事か?」
「いえ、そっちは私用です」
つまり、俺は公用なのね。気分が一瞬で最悪になっちゃう。
「取り敢えず来い。武藤の所へ行くぞ」
「いえ…、そんな状態でもありません」
「何でだ?早い方が良いんじゃねぇか?」
「彼は…、貴方みたいに再生能力がふざけてたりしません」
「…悪かったねふざけた回復力で!」
「JOKERに痛手を負わせた所までは良かったのですが…。アキレス腱を切られ、行動不能になっていた所を回収されました」
痛手…、か。結局、逃げられないのか。
「で、集中治療室に突っ込まれてると」
「ですからまず、貴方に――」
話を遮る。巫女服に、メイドスカート?何かそんな奴どっかで聞いたような…。
「…おいテメェ。ちょっと聞きたいことがある」
「…はい、何でしょう?」
クソッタレ…、分かってたように笑いやがって…。何か後ろからドタドタ走って来ている音がするのは、多分気のせいだろう。
「ここじゃ駄目だ、事務所に行こう」
「居たぞ!ライナーズだ!」
ここから逃げたら、更に責任追及が激しくなるが…。まぁ良いだろう、甘んじて受けてやる。そんな追及よりも俺の用事の方が重要だからな。




