未龍狩り
「えー、諸君。これより次の任務に移行する。我々の威厳と信頼を復元する大きなチャンスである。先ずは―――」
「ねぇ、これ聞いてる意味ある?」
「ホントのこと言うと無いかも。私に来た情報によれば国民には非公式でやる筈だし」
「さっすがエスカさん、情報早い〜」
「ここで捌くぞ」
「サーセン」
威厳と信頼なんてこの国の警察には無い。いや、警察と呼ぶことも間違いか。この国の警察は、殆ど軍隊の様な物で、国の防衛戦の際にも、使役されるだけの戦力が存在している。そもそもちゃんとした軍隊を作れば良い話だが。
「作戦担当部隊は、特殊任務先行第一係、第二係、リヴェル、ターコイズ。以上の4班で行う。第二係、ターコイズは周囲の情報収集。実行部隊は、第一級とリヴェルとする。作戦は1月23日に決行とする。詳細は後に話す。以上、解散!」
特殊任務先行係、国や内部の緊急性のある任務にしか参加しない、言わば『言われるまで何もしない係』。しかし実力は確かだった筈。
「よう、お前ら。随分と早かったじゃないか」
「武藤…テメェ…」
「で、エスカ。俺達が何だって?」
「23に特一とどっかの突入だってさ。相変わらず嘘付きなお爺だったよ」
「お爺ゆうな、一応ここの総長やぞ」
「歳上に対する敬意の無さが伺えるぜ全く」
「その理屈なら、俺もお前らから優しくしてもらえるよな?」
「「武藤は別」」
「おい」
一応、リヴェル最年長は武藤辰吉になりはする。だからといって位はエスカの方が上なので、結局大事に扱われない。
「やぁ、久し振りだね」
「おお、金子さんじゃないですか」
金子情報統括センター所長、皆から好かれている情報統括センターの所長。その誰に対しても差別しない姿勢が、人気を呼ぶのかもしれない。
「実は困ったことが起きたんで、手を貸してはくれないかい」
「良いですよ、なぁ」
「私は手伝います」
「武藤は?」
「…しょうがない。余り好きじゃないが、行くか」
「何でさ」
「黙れ」
そう言うと武藤はそっぽを向いてしまった。余程知られたくないのか、恥ずかしいから言えないのか、よく分からなかった。
「立ち話もなんだ、会議室へ行こう」
そう言われるがまま、会議室へ案内される。情報統括センターはその名の通り、情報の宝庫だ。盗人が現れないように、センター内の地図は無く、更には2ヶ月に1回部屋替えが有るらしい。帰る時も専用のエレベーターで外まで送り届けるという徹底ぶり。署内よりもずっと金が掛かっている。
「一本、戴いても良いかな?」
「どうぞ」
喫煙者だったらしい、…と思ったら煙草じゃ無くて菓子だ。多分禁煙中なのだろう。癖が抜けていないらしい。
「実は君達のOBであるインフェルト君に関係するかもしれないんだ」
「インフェルト…、彼がどうしたんです?」
「直接的には関係は無いんだ。だがどうしても間接的に関わりが有るという事を伝えておきたかっただけさ。頼み事をする相手に対しては、ちゃんとした敬意を見せなければいけないだろう?」
大多数の人に気に入られる理由がよく分かったかもしれない。
「君達は、俗に言う『龍狩り』をしているだろう」
「エスカとかは違うけど…、してはいます」
「私は凛達と違って戦うだけの脳筋じゃないです」
(はっきり言いやがるなこのヘタレ)
「その龍が、旧第三地下牢獄内に発生したとの報告を得た」
「…未龍か」
未龍と言うのは、元々は生物であったのだが、何らかの異常発達を急激に起こした、言わば生物としてのバグとして考えられている存在。しかし、変異する生物に共通点が無く、魚類や哺乳類等の動物を含め、植物までも変異した例が挙がる謎の生物。
動物が変異した例を見てみると、骨や肉等が剥き出しになる程膨張したり、体の所々が融解して無くなっている場合もある。見た目が西洋の『龍』に近く変異する為、龍になり切れなかった龍。『未龍』として大々的に発表された。
「その未龍の完全体と思しき者だそうだ」
「それを狩れば良いんですか?」
「いや、サンプルとしての回収を頼む」