複製品
「痛ッ…。あー、気分悪ぃ」
どれ位眠っていのだろうか。ひょっとして3時間位寝てしまったのか。
「そんな経ってないな。あの野郎どもどこに行ったんだ?」
血溜まりに倒れていたせいで、服が黒く変色している。少なくともクリーニング代を支払う事は確定してしまった。
「大きさの違う足跡が3つ…、3つ?」
自分の靴裏を見返す。確かに血は付いているが、乾き切っていて足跡なんて付かない。つまり、あの場には4人居た事になる。しかしそんな事はあり得ない。俺の意識の保っている間に奴等は出ていった。鍵もかけた。後片付けもしないのに、態々ズラすか?
「あれ?圏外になってる」
携帯電話が圏外になるなんて、滅多に無い事だ。確かに昔は山とか行くと圏外にはなったし、ここだって国の外れだ。だがコレは何かがおかしい。無線も通じないのか?
「あ〜、気持ち悪ぃなぁオイ…」
刺されたのはまだ治るから良いけれども、密閉された中の血の臭いは最悪だな…。こう言う時に不便だよなこの体。
「取り敢えず外の奴等を呼ぶか、施設内を探すか…」
外は外で大変そうだ。さっきから光が物凄い鬱陶しい。施設内も、奴に蹂躙されたとか言ってたが、所詮人間だ。見逃しは絶対有る。
「おぉう…、こりゃ酷いな」
白かった廊下に血の足跡が幾つも付き、辿ると全て死体の物だった。しかし本当に人間なのか。同族の殺し合いは珍しい事でも無いが、殺し方に仕事感も無理矢理感も、果には快楽感も求めない殺し方に見える。まるで…、そう食事だ。所々欠けているのは、もしかして空腹だったからか?
「それだとまるで…」
「「獣じゃないか」」
背筋が凍り尽くして縮んでる。蛇に睨まれた蛙が近い。捕食者が居たらこんな感じなのかなと、悠長に考える程パニックになる。
「誰だ!」
「誰だって、失礼だな。折角為を思って殺してあげたのに」
そう言って取り出したのは、先程の女の首だった。
「お前…!」
「少しは感謝してもらいたいね。メリットなんて何も無いのに人に殺らせてさ」
「俺はそんな事は頼んでいない!…おい、ちょっと待て」
「どうしたの?具合でも悪くなった?」
先程までのやり取りを見ていたのは、俺と、女と、野郎だけの筈だ…。なのにどうして?
「知りたい?」
「人の考えを読むんじゃ無いよ」
「読んでない読んでない。そんな不確定な事はしないよ」
「じゃあ何でだ」
「そりゃあ勿論――」
「同じ魂だからね」
「模造品だからか」
「当たりぃ!少しは勘が冴えてきた?」
もうそれしか可能性が無い。つまり、あの足跡はコイツが付けた物だった。俺が倒れた後、コイツが何らかの原因で誕生。そのまま鍵を内側から開け、また掛けたんだ。俺が生きていると悟られない様に。その後、ここで乱闘を起こし、周りの人間を巻き込みながら殺したのか。
「そう、さっき欠けてるって言ってたあれは、砕けて液状に近づいただけ。食人なんてのはしないよ」
「男の方はどうした」
「私見た途端、コレ置いて逃げてったよ」
本能的には、まぁ不自然でも無いんだが…。見捨てるのに戸惑いないんだろうか。人間としてどうかと思うけど。
「で、ここから出たいんだけど。出口どこ?」
「ん?そんなの知らないよ」
「…は?」
「地図も持ってないし、記憶にも無いし、そもそもどっちか有ったって辿り着ける訳無いじゃん」
「タシカニ」
揃いも揃って方向音痴とか終わってるな、俺ら。模造品なんだからもうちょっと性能上げといてくれないかなぁ。
「五月蠅いなぁ、全部聞こえるからちょっと黙ってくれる?」
「それ、人に言えた事か?」




