隻眼と白銀
振り向くと、少し離れた所に天廻が立っていた。やはり、怖がっていたのか、足が少し内股になっている。
「どうした?」
「その…、その人は、大事な人…だったの?」
「本当はハッキリと、言いたいんだけどな…」
「そっか…、忘れないでね」
「え?」
「私には…、誰かが大事だなんて、思い出せないから」
「そうか…」
本当に、思い出せないんだろうか。本当に、記憶は有ったのだろうか。本当に、優しさを受けたのだろうか。
「お兄ちゃんって、初めて言えたのに、懐かしい気分がするね」
「俺もだな…。天廻って、知らなかったのに、知ってた様な感じがする」
「あのお姉さんに会っても…、怒らないでね」
「ああ…、約束する」
そう言って守れた事なんて、1度も無いけれど。今度こそ、守らなければいけない。ジャックと、天廻の為にも。
「初めて、笑えたかもね」
「かもな」
天廻の辿ってきた過去と、自分の怒りは同じ負の感覚を持った。だが、違う事があった。
彼女は人としての負であり、自分は咎としての負である事を知った。
「私を、大切にしてくれる?」
「しないって選択肢は、有る訳無いだろう?」
そう言って、優しく、強く、抱きしめた。何故か涙が流れた。理由なんて、考える方が野暮だ。俺は、賭してでも護らなければいけない。
―隻眼の少女と白銀の少女を。
第一章 記憶喪失の幼き白銀




