化物にも人間にもなれなかったヒト
敵戦力、推定29体。その内の16体は腐敗している為脅威にはならない。持久戦に持ち込めば、勝手に自己崩壊する。
操演者はSEVENS。コレさえ殺してしまえば、操演対象も止まる。だが、肝心の本体を見つけられないのと、とても臆病かつ狡猾な点が問題だ。
「青髪」
「はい?」
「ッ…、奴の透過能力、アレは何に依存してるんだ?」
自滅覚悟で飛び込んでくる肉塊を、勢いに任せて殴り倒す。腐った体は、まるで蟹身の様に裂けていき、砕け散った。
「光学迷彩、光線反射、能力、擬態、彩色。大体、この位のモノか、なッ!」
「この反転色なら擬態か彩色か。くッ…、だァッ!!突破するには…、そうか」
推定戦力なんて当てにはならなかった。腐ってもそれは生体兵器。十年物だろうが、突撃兵にされちゃ対応が厳しくなる。それだけ奴の知能が高いと言う証拠か。
「私も聞くけど、この反転色は催眠?」
「いや…、心外発露だ。奴ら未龍の認識している世界を経歴で補完し、他人の機能へと影響を与える。そんなモノだな…」
ただし、これも仮説には過ぎないのだ。明確な未龍のサンプルが無い以上確かめようもないからな。
「私…ハ、たダひッソりト暮らし、タイだケなのニ」
「未龍に…意思が?」
「…だったら人に、俺達に手を出すな…!!」
未龍も生物である以上、思考と意思はある筈だ。だからと言って、コレを知的生命体として認める事は出来ない。会話なんて畜生でも出来る。
「キリが無い…」
「で、この絶望的状況…どうする?作戦立案係さん?」
考えろ…。思考をクリアにしろ…。
子供達の解放が優先。SEVENS討滅は次点だ。
だが、奴はどうやって、子供を連れさって行くんだ?
恐らく、いや、確定的に催眠だろう。だが精神解除系なんて使えないし、無理に起こせばどうなるか分からない…。
「心外発露を解除すれば、子供の姿は見えるんじゃない?」
「解除…、解除か…」
方法として思い浮かぶのは、JOKER戦での範囲書き換え。アレの力は、確かに心外発露を打ち破れるだろう。
だが、あまりにもリスクが大き過ぎる。俺の体が保たないのは勿論、子供達まで巻き込んでしまうかもしれない。
せめて、奴の場所さえ分かれば、話は変わるんだ…。
「…青髪」
「何でしょ?」
「俺が空間を破る。お前は…」
「はいはい、分かりました。…死に急ぐならやめておけよ」
その言葉は少し、言い回しが凛に似ていた。
だったら、任せておいても大丈夫そうだ。
死に体の回収は。
「…MODE:CHANGE」
空間が粉々に砕け散る。
綺麗さを感じさせない粗い粒子。
無価値の開門は、文字通り開くんだ。
そしてそれは、術者が死ぬか閉じなければ終わらない。
まだ、地獄への門は開いたままだ。
俺は閉め方は知らない。知る方法もない。
「よし、見え――」
「CODE…21」
急速に世界の再生が始まる。いや、局所的な世界の書き換えとも言うべきか。
その書き換えの中心部、その深核に武藤が居る。
だが、何かがおかしい。
凛もJOKERもENFORCERも、世界の書き換えに関して言えば制御が効いていた。
ソレに似た事をしている筈なのに、この奔流と烈風。
明らかに制御が効いていない…、否。
制御する気が、元より存在していないのか。
「子供達は…、任せたぞ」
「そんな出力で使ったら、皆巻き添えに――」
空中で逃亡姿勢をとるSEVENS。
だがもう間に合わない。
結果はもう、決まっている。
「詰めだ…、SEVENS」
破砕。
轟音。
烈風。
その全てが、一閃。
瞬光の後、消える。
SEVENSは抵抗の意を示したまま、墜落する。
子供達は…無事だ。空中で助けているのが霞んで見える。
これでやっと、俺の努力は報われた。
あぁ、でもやっぱり
「―…、――!」
こんなにも体が破損しているのに、
どうしてまだ、俺は死ねないのだろう。




