激昂
「あ!居た居た!やっと来てくれたんだ」
「…おう、ちょっと気分が悪くなっててな」
「大丈夫?」
「おう。二人とも、ちゃんと服は買えたか?」
「うん!後で家に帰ったら見せたげる」
「そうだ、これお前らにやるよ」
「何これ?」
「ジャックはよく使うだろ?新しい眼帯だよ。欲しいっつってた奴」
「あんまり着けたくないけどね」
「まぁ、仕方無いわ」
ジャックは、幼少期に怪我をしてしまった。具体的には、母親の不注意でテーブルの上に乗ってしまい、そこから転落してしまったのだ。その際に左眼が8割程潰れてしまった。幸い命は助かったが、眼球を治す技術は存在していない。義眼も付けなかったから、せめて眼帯だけはってなった。
「そしてだ、天廻。ちょっと後ろ向いてくれ」
「…こう?」
「そうそう、動くなよ…?」
買ってきたそれを、天廻の頭に巻く。…あまり好きでは無いかもしれないが。どうしても目に止まったからな。仕方無いやな。
「よし、出来た」
「おお〜、無駄に器用だよね」
「…世間的には不器用だけどな」
「これ何?」
「ん?バンダナだよ。似合うと思って買ってきたが…、やっぱ似合うよな」
「カチューシャみたいになってる」
「だろ?やっぱ俺ってセンス良いなぁおい」
「自画自賛が過ぎる」
雑談をしながら家路につく。ジャックは、俺が居ない間の話を聞かせてくれた。何でも、服装が巫女服にメイドスカートとか言うふざけた見た目をしていた奴が居たらしい。確かにその組み合わせは好きだが、あまり日常では着ない方が良いと思う。
「で、その人は何しに来てたんだ?」
「ん〜とね、人探しって言ってたよ」
「人探し?迷子にでもなったんかな…」
「でね、その人がこれくれたんだ〜♪」
「ふぇ?何これ」
ロケットペンダントみたいなんだが、見た事ねぇやな…。叢の中にウリ坊と槌?どういう趣味してるんだろ。
「天廻のはどんなんだ?」
「これ」
「拝借しま〜す」
こっちは花畑の中に砂浜と匙か。…よし、理解不能。意図は不明でございます、はい。取り敢えず返します。
「そうだ、お姉さんが言ってたよ」
「そいつは…、さっきのくれた人か?」
「うん、それでね――
『神凪セレナはどこ?』って」
反射的に壁を殴る。当然壁は割れる事なく、傷付いたのは自分だけ。少しだけ、手から血が滲んでいるのが感じる。一日に二度も言われたせいで、感情が少し不安定になっている。
「お、お兄ちゃん…?」
「煩い」
「どうしたの…?何か変な事言っ――」
「黙れッ!俺の前で、二度もその名を呼ぶなッ!!」
「ひっ…ぅ」
完全に激情に駆られている。脳も体も激昂しているのに、意識だけは別物みたいに冷静に、第三者視点にでもなっているかの様に落ち着いている。まるで、自分が物凄く好みな映画を観ている最中の感覚に似ている。
「がっ…!――」
急に体の感覚が戻ってきた。それと同時に、酷い頭痛まで貰ってきた。畜生め…、確かに逆鱗には触れるが、だからと言って女を泣かせるなんて最低のやる事だろ、クソが…。
「ぅっ、ぁう…」
「…ごめんな、俺が悪かったな…」
その後、泣き出したジャックを抱え、家へと歩いた。家に着く頃には、泣き疲れて眠ってしまった。眠っているジャックをベットに寝かせ、リビングで思考を巡らせ、現実逃避を図った。
「セレナ…」
「お兄…ちゃん?」




