略奪する本能
「イス…ト」
痛みを必死に堪えながら、ぎこちなく笑おうとしていた。急いで抱きかかえて、やっと気付く。
「イスト…、腕、は…?」
「失敗、しちゃったかな…はは…」
左腕が、二の腕の真ん中から無くなっている。切断面は、まるで火傷したかの様に焼け焦げ、出血すら出来なくなっていた。
「…、役目は終わったみたいだな」
「役目って、何なのさ…!!」
その言葉を聞いて、まるで興味が無くなったかの様に、切断された腕を踏み潰す。暗がりでよく見えなかったのが、せめてもの救いだった。
「蛇に喰われる前の蛙なんだ。このまま放った方が、俺としても無駄にスペアを消費せずに――」
「煩いッ!!」
もはや正常な判断は不可能だった。
五体満足で動く体に憎悪すら覚えた。
だって傷付くのは私の役目なのだから。
あの娘達を護るのが私の役目なのだから。
「その表情、あまり良いモンじゃないな」
そう嘲笑いながら、沈黒の中に彼は融けた。
「ッ、おいヨナ!治せるか?!」
「…、まだ繋がってる。これなら治――」
息が止まる。いや、止められた。喉に何か、冷たい金属の紐が巻き付いているのか?そうだとしても誰…、が?
「くッ…、早―離…て…!」
「鎖…?イス――」
目の前で始めて理解した。この首を締めているのは鎖なのだと。締め付けは強くなるのに、殺そうとする意識がない。
「ごめんね…、加瀬さん」
「鎖の…、使用権限は…?」
「ありがと、ここまで…連れてきてくれて」
開き続ける金属音が、その瞬間停止した。
それが何を示すのかが分かる。
それで何が起きるのかも分かる。
本能的には分かっているのに、理解を理性が拒絶する。
「次の目覚めは…、綺麗な朝日なんだろうなぁ…」
脳に酸素が回らなくなっている。
そうして薄れゆく視界で、最後に見たのは
―これでもう、苦しまなくて済むよね。
そう笑いながら、一度。
彼に別れを告げなかった、後悔と安堵の顔だった。
「…」
「状況は?」
「…さて。停止信号までの防壁が厚すぎる」
このタイミングで寄越したって事は、向こうはカタが着いたのか。…それだったら、青髪じゃなくて本人が来た方がよっぽど役に立つんだが。
「システムの弱点は判るんだが、…如何せん文字が読めなくてな。停止信号どころか強制停止すら使えない」
「…確かに、こんなシステム言語なんて有ったっけ?」
ただ、この形式の文書は見た事がある。セレナがよく使ってた慈眼結界と同じ文言。流石に並びは違うが。
「…調べた所、このシステム防壁は全て東洋式の結界文書だ。で、物理防壁の方は多次元流体金属製の水圧型。
どちらも突破するのに時間が掛かる代物なんだが――」
音が消える。目を閉じていても感じる強烈無比の光。熱風とも言える、背筋を抜き折る様な悪寒。
「物理防壁が、なんだって?」
目を開けると、まるで原爆の様な爪痕と、臨界事故の様な青白い光が、壁に焼き付いていた。
「焦げない様に結界張ったんだから感謝して」
「マズイ事だな…」
「?」
強力無比な能力なら、他にも無数にあるだろう。時間停止や強制即死、精神操作や不老不死とかだ。
だが、それは強力無比なだけであって、目に見える恐怖にはならない。精々絶望するくらいで済むだろう。
そう、目に見える恐怖となり得ないから。
「この威力以上で使った時、あるか?」
「いいや?こう言うのは、局所的に集中してやる物だし」
「今後、偽装できる時以外はやめろ」
民衆に物理的恐怖を抱かせる事は、決してしてはならない。ましてやそれが、自分達を護る者が行うなど言語道断だ。
「先にアンタに見せといて正解、だね」
「凛じゃだめなのか?」
「民衆を巻き込まない程度に最大出力、だろうね」
そう考えるのも、無理はないだろう。考え方の違いだ。民衆を優先した後、敵を排除するか、味方を保護するかの違い。
ただそれだけの事だ。だから俺はアイツを否定しなかったし、アイツも俺を否定しなかった。
「で、この後どうすんの?」
「リミッターを全解除して、熱感知でシステムダウンさせる。最悪それで止まらなくても、ここが吹き飛ぶだけで済む」
実際は制御棒さえ抜ければどうとでもなるのだが。それをすると、恐らくシステムダウンどころかメルトダウンして、ここら一帯が不毛の地になる。
「随分と、回りくどい手段だな」
主電源―未装填
制御棒―安定
凍結界―安定
防衛機―待機
核燃料―安定
―全システム、臨界突破
「よし、早く逃げ――」
―管理者権限、承認
システムの再起動を開始




