真偽の意
こうやって人を殺したのは、2度目だ。
あの時とは、人も場所も違うけれど。それでも私は、貴方を殺した。今、ここで。
さようなら、誰かさん。
せめて、その刃を突き立ててくれたなら、
私は、罪を償えたのだろうか。
「―ッ」
…まだ息が残っている。
その顔を見て、全身の血が引いていくのが分かる。
だって、私は貴方を捨てたのに。
アレがデバイスだって事は知っていた。
あの思考が深層心理のモノだとも知っていた。
だから私は、貴方を捨てたのに――
「嫌……、こんな…」
倒れ込む体を引き寄せられる。白く濡れた服に、赤黒く滲んでいく。傷口からは血が常に流れ、それを見て一層心音が高まってしまう。
視界が雨で歪んでいるのか、近くにある筈の顔すら見えない。思考を全て飛ばさなければ、保つ事すら難しい。
「…、気は済んだか?」
「ぇ…?なん、で…?」
「内臓開けられたくらいで、オレが死ぬ訳ゃねぇさ」
見下す様に、諭す様に、その言葉は投げかけられた。
その痛みを受けても尚、その心象に悪意は無かった。
私がどれだけ傷付けても、その返答は変わらない。
「人々を護るのが、オレの仕事だから、な?」
もう少し、このまま寝てしまおう。
そうすれば、朝には全てが戻っている。
私が愛せなかった平穏も、貴方が遺した約束も。
手を伸ばせば、いつもそこに居た。
いつも、私を助けて愛してくれた。
誰よりも、自分よりも。
だから怖かった。
喪った時の感情を、知ってしまうのが怖かった。
そうやって逃げても進めないのは知っていた。
でも、そうするしか無かった。
誰もが私を護ってくれるのに、
誰も理解をしてくれなかったのに、
あの人だけは、理解してくれて。
あの人が一番、護ってくれなかった。
「総長。全軍収集、及び戦闘配置完了。指揮を」
「…分かった」
自分達がどれ程の罪を被ったか、そんなモノに思考を費やす余裕などない。だから、この戦いに意味なんて見いだせない。でも、それでも私は、自分すら殺してでも望みを果たす。
誰もが幸せになる世界なんてないなら、
せめて、誰もが傷付かない世界を作る。
「今日の総長も、えろぅ美しかったなぁ」
「アレでいて14だとは、女の歳ってのは判らん」
「だからモテるんだろうなぁ。…主に女性陣に」
「総長さん、今度花見にでも行きません?」
「ッ…、ぁ、いや。遠慮する」
「え〜、行きましょうよぉ。良い場所見つけたんですよ」
「…だから――」
勢い良く開くドアに、全員が釘付けになる。静寂なのか良く判らなかったが、その場が静まり返ったのが分かる。
そして大体こんな時に来るのは…。
「良いじゃないか、花見」
「…、でも…」
「副長じゃないか。お〜い、副長が帰ってきたぞ〜!」
「副長、ドアは蹴る物じゃないっスよ…」
「副長も行きます?花見」
「あぁ、そうだな。行かせてもらう」
不満そうに睨みつけても気付かない辺り、ホントにただ花見がしたいだけな様に見える。
「じゃ、行くんだったら仕事片付けて?」
「…仕方ないな、先行っといてくれ。後から行く」
誰もが私を好いていた、らしい。
その事実に興味はないし、意味もない。
だって私には、約束があるから。
私を殺してでも叶えなきゃ、約束破りだから、ね。




