心身の乖離
一撃。必要なのはそれだけ。
相手を打倒するのに、連撃など不要。
「所詮一にも届かないくせに…ッ」
一に届かないから、諦めろだって?
…発想が単純、甘過ぎる。
今の俺には、一を超える必要性すらない。
「…行け」
「…はいはい、いつもの厨二病ムーブですか」
「今回ばかりは時間がないんだ」
夜の帳に、朱く結界が張られていく。OIL AIRSが射撃体制に入っている証拠だ。
だからといって止められない訳でもないし、武藤に賭ければ良い。だが、どうも面倒な事が混じっている気がする。
「…了解った」
一撃必殺。
それは、自らより格下、もしくは同格の者にのみ効く言葉だ。故に、この状況では似つかわしくない。
だがそれは力のみを考慮した結果だ。人間には無駄な感情が多過ぎる。
そこを視野に入れるならば、覚悟のない奴よりも、俺の方が格上だ。
「「MODE:Γ―」」
第一関門。
あの時間停止を、如何に対策するか。
確かに、時間逸脱で回避は出来るが、あくまで可能なだけ。
先の戦闘経験も考慮すると推奨されない。
だが、奴の能力は言わば概念系能力。
だったら、タイミングさえ見切れば行ける――
「神ノ――」
「ッ、ここだァッ!!」
空間が、硝子の様に弾け砕く。
世間では概念系が厄介、だと思われている。
確かにそうだ。俺だって不意を突かれれば効くさ。
だが、1つ勘違いをしてる。
そんなモノに――
「一体アレに、どれだけの重量があるんだ?」
重さが無い物に、俺は負ける気はしない。
「構―」
カッター刃の如く、刃を砕き、折り研ぐ。
踏み込むENFORCERの体に触れた金属片が、まるで研磨時の塵の様に砕き吹かれていく。
小手先、いや、上等な技ですら効かないだろう。それ程の戦力差。それだけの強大さ。
故に、勝道は一筋。
その力を、変換出来るだけ撃ち返す。
「定―」
射撃形態を維持したまま、斬撃形態へと力づくで変形させる。雨が更に悪化し、反射光がなければ一寸先すら見えない程の闇に包まれる。
―お兄ちゃん
次の瞬間、俺はあの剣で穿かれる。それは避けられない未来だ。ならば、肉を切らせて骨を断つ。
多少の傷は治る。無理をしてでも奴を撃つ。
その侵された心毒諸共、我が毒牙で浄化する――
「血…?」
長い時間が経った様に感じる。だが、何も進んではいない。結局止まっているのはこの空間だけだ。
俺は、予想通り穿かれた。肺と鎖骨に、冷たく雨粒の振動が伝わってくる。
だから、このまま刃を振ればいい。
その勢いのまま、首筋に突き立てればいい。
それでも、頭では分かっているのに、
それを拒絶する人が、俺を貶すかの如く残っていた。




