凶津星
「ん、新聞か」
『丁度良いや、それで時間見てよ』
「…図書館の新聞って、たまに遅れてるからなぁ」
図書館、なんて言っても殆ど遺跡みたいなモンだからなぁ。司書がいない時点で、結構ヤバいな。掃除はされてるみたいだけど。
「え〜と…、『2035.1.2』最近のだな」
『…あんな被害出てたっけ?』
「確かに、OIL AIRSの使用履歴の内、戦闘に使われたのは2回。それも昔の事だ。しかもこの新聞、」
手を伸ばしてみても、虚空を掴むばかり。つまり、これは正史だ。この記憶はENFORCERのモノとは認知していたが、まさかここまでとは…。
「何か、隠蔽工作が働いたか?」
『…あの跡地を見て、そんな事が言える?』
「だよな…、て事は」
あの跡地こそ偽りなのか?だがそれでは、あの住民達の設営地はどう説明する?何から何までおかしい。
まるで、過去も現在もまとめてかき混ぜた様な世界だ。
―モ…良イ
「コイツは…」
『…』
―…ンナ茶…ヲ…ル為ニ、オ前ヲ……タノデハ……
周りの物体が、少しずつ粗くなっていく。窓枠、文字、本棚。まるでモザイクが掛けられている様な見た目。
「…どうなってる」
『…ENFORCERの記憶内だと仮定するならば、その記憶を自分自身で消去してる可能性』
「出口は?」
『記憶内のENFORCERに何かしらの衝撃を与え、トラウマの要領で記憶を引き出す。そうすれば、記憶内に断層が発生するから、そこを利用して外に出る』
郷の人々も粗くなり始めている。
探している時間はない…!
「…やるしか、ないか」
『断層が出来たら言うよ』
「頼む」
俺達が精神体として活動している以上、与えられる影響は精神的なモノのみだ。なら、それを広範囲に、かつ爆発的に一瞬で広げる。
―我は七天の反逆を持ち、
その契約を満たさん事を
―我は八苦の洗礼を持ち、
その成約を成就せす事を
―生は死を以て証明し、
死は生を以て秘さん
―露結、焔陣、嵐流、乾成
その全てを、我が天雷が須く
―雷撃昇・総天
天の光を見た。
空に掛かる橋よりも、
星を繋ぐ線よりも、
私は、その光に魅せられた。
だけど、その光は凶星。
全てを、私を不に落とす魔光。
それでも良かった。
純粋で、唯一つ叶えられなかった願いを、
その凶星は見せてくれたから。
『行ける…、そこで待っててッ』
「了解…!」
その言葉の直後、身体が浮いているのが判る。馬鹿力で蹴り上げられたのだろうか。背骨が曲がっている。
「…封印は、解かなくて良かったのか?」
「少なくとも、良くはないだろうね」
自らの、彼女の約束を。
「…殺らなきゃならないのか?」
「…そうなったら、私は凛だろうと容赦しない」
「…そうか」
むしろ、それで良いかもしれない。
そんな事を思っていながら、
「殺ってみろよ、できるならな」
心はどこまでも、淀みきっていた。




