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Slave Of The One-Eyes  作者: 軍団長マッスル
第九章 反復記号と複数線
101/113

誰そ彼堕ちて、

中央大戦。破壊の規模的に、第二次の可能性が高い。てことは10年前か。焼け野原の原因は…、OIL AIRSだな。当時は伏せられたが、この規模の破壊が出来るのは核かそれしかないからな。


「何突っ立ってんの、着いたよ?」

「ん、あぁ。知ってる」


純白の郷。

名前の由来なんて興味ないが、恐らく全体的な人間の色素が薄い事が要因として挙げられるだろう。ぱっと見えるだけで、白金髪の人間が何人居るやら。


「で、どうすんの?…セレナに会いたい?」

「…いや、見なくていい」

「じゃ、早速行きますか」


この郷は比較的行きやすい場所だ。電車も通ってるし。だが、その癖して排他的な気質だ。そのせいで、爺さん婆さんが大多数を占めている。あと十年もすれば、この郷は滅ぶ。


「…変だな」

「言ってみ?」

「OIL AIRSの被害が、全くと言っていいほど無いんだ」

「…あともう1つ、気付かない?」

「何だ」

「あの技術。ゼブルゲートだ」


何かおかしい。ゼブルゲートの実用化はまだ先の筈だ。本国ですらまだ実用化出来ていないのに、何故?

いや、そもそもがおかしい。ゼブルゲートの開発自体がまだ進んでいない頃だ。考えろ、頭を回せ。ここと本国が繋がっているとすれば何か。何かある筈だ…。


「旧三獄…!」

「何が?」

「旧三獄に未龍が多い理由が分かったぞ…。あそこに居たのは、ゼブルゲートを通って本国に来た、…ここの住民だ」

「…、言われてみれば、バアルゲートが着いてない」

「だとしたら…」


だとしたら、天廻は危険だったのだ。そのまま放っておけば、未龍として殺す羽目になっていた。…だからつまり、『あ〜ちゃん』と呼んでいたのは…。


「…天廻の髪色、ENFORCERと同じだよな」

「だとしたら?」

「ENFORCERは、天廻を狙ってやってるんじゃないのか?」


ジャックと天廻に渡したペンダント。何故そんなモノを渡したのか検討が付いていなかった。だが、漸く理解した。

ジャックに対しては、殆ど威圧目的だろう。猪子槌を選んだ理由も、JOKERに容姿が似ていたからだ。勘違いも甚だしいな。

そして、天廻のは花浜匙、スターチスだ。色によって違うが、共通するのは変わらぬ心。意訳すると、


『貴方は私を憶えていますか』


「天廻の記憶が無いのは、ゼブルゲートの副作用だ」

「そんな記録、残ってないけど」

「アレは試作品だ。魔術耐性が無いやつが魔力を過剰摂取したら、どんな事が起きるか判らんぞ」


人が少なくなるにつれ、周囲の音がよく聞き取れる様になる。…祭囃し?こんな非常事態に祭りか。いや、外を知る術がないのか。


「『巫女生誕ノ祝儀』、か」

「じゃあ、ENFORCERは巫女じゃない?」

「いや、アイツが本来の巫女だ。でなけりゃおかしい」

「本殿、調べる?」

「嫌な予感がするがな…」


幸い、人の眼を気にする事はないので、罪悪感無しで本殿に入る。古典的な木の匂いと、閉じ込められた神体らしきモノが見える。


「この神体…、死体だ。それも最近の」

「人間、じゃないね。これは…」


腐臭が鼻をつくと同時に、神棚から液体が流れ出る。短期間にこれ程まで腐る死体は…、未龍。未龍の死体を祀っている。


「何故死体で残っているんだ…」

「…、これじゃない?」


腐肉汁を吸っても尚、色が変わっていない紐。注連縄だ、これは。だから身体が死んでいても、注連縄のせいで強制的に形状を固定させられているのか。


「あ、崩れた」

「…どうも変だな」


本殿の表で、その巫女を探す。予測が正しければ…


「弥郷さに似て、可愛ぇ娘じゃなぁ」

「名前は何と言うんだ?」

弥雪(みゆき)です。ほら、雪みたいな髪でしょ?」

「この辺りじゃ雪なぞ降らんからなぁ、めでたい事じゃて」


「アレが…、天廻か」

「で、肝心のENFORCERはどこさ」

「…予測、当たったぜ?」


弥郷、と呼ばれる女性に近付く。耳には何かの植物を模したピアスが着けられている。この植物を見ても、この場の人間は何も思わないだろう。俺も、そんな事は絶対に考えつかない。

だが、俺らは未来から来ている。漫画の1巻を飛ばして2巻を読んだ状態と似ている。


「この葉、何?」

「月桂樹、ローリエだな。…てぇ事は、」

「その月桂樹を探せば良いの?」

「ま、多分その月桂樹。夜じゃねぇと見つからないけど」

「何で」

「…ここら一帯、催眠魔術が敷いてある。さっきの死体から同高度の社を探し、死体を全部崩せば催眠が切れる」


あくまで憶測だが。こういう和式の術は結界の柱ってのがポイントなんだ。そして、これまで触っても何も起きなかったのに、あの死体だけ崩れた事から考えるに…。


「この催眠、この時代では付いてなかったの?」

「記憶だからな。真実じゃない記憶は触れられるんだろ」


同高度の社は…、仏蓬と、…神凪か。


「…神凪、私が行こっか?」

「…頼む」


離れても喋れるのはこういう時に便利だ。待ち合わせなんてしなくて良い。楽だ。


「…、行ってみるか」


…時間はある。少しだけ、寄り道をしよう。

そう言い訳しながら、図書館へと歩みを進める。


―私は、貴方の代役にはなれなかった。

 ルカも、月も、天廻も、ジャックも、

 全部、全部私は護れなかったのに。


―エスカさんも、加瀬さんも、武藤さんも、

 セレナさんですら、私を咎める事は無かった。


―そうやって、私を護ってくれていた。

 だから、そんな私だから分かった。


―私は、何者にもなれなかった。

 だから私は問い続けよう。


―それでも貴方は(私を)赦して(殺して)くれるのですか(くれないのですか)

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