身を灼きぬ、
私は彼を愛していた。
彼も私を愛していた。
それは純粋な親愛から来るモノなのか、
その頃の私には理解出来なかった。
でも、1つ分かる事は、
私が私でなければならなかった。
誰かに助けられ、
誰かに護り抜かれ、
そんな無力な私でなければ、
私を愛してはくれなかった。
「やっと、久方振りの再会だな」
…何を言っているのだろう。
まぁ、良いか。
彼が私を認めるまで、
私は、何度でも穢れよう。
何度でも、人間を殺そう。
「無反応、って訳でもなさそうだな…」
「…まだ怪我が治りきってない」
「そりゃあ、人ならしょうがないだろ」
「いや、ちょっと前までは傷なんて1個も無かった」
「…いや、今回ばかりは俺の読み勝ちだな」
傷、と言っても色々ある。切傷、摩擦傷、打撲傷。そして、傷の付く過程。他人から、自然物から、無意識から。
だが、あの傷は恐らく…、自傷。それも裂傷だ。
爪に着いている血液も、自分のモノだろう。
「…れ?」
「錯乱してるな」
「止められるの?」
「…止めないと、俺ら死ぬだろ?」
「言えてる」
光の塔が、ENFORCERに呼応して、その姿を変えていく。淡く光るその塔が、まるで生き物かの様に、そのまま呑み込まれた。
「何だ…?ここは」
「こんな事出来たっけ…?」
荒涼とした大地が、まるで爆撃を受けたかの様に焼け焦げている。焦げた匂いを纏わせながら、春の空気が辺りを舞っている。
「で、何だここは?」
「ENFORCERの記憶にある、最も印象的な情景」
「…何で知ってるんだ?」
「イデアシアが作った装置に似てるんだ。コレ」
「まぁ、こっちは魔術な分、…面倒だがな」
ENFORCER本人が見当たらないので、取り敢えず散策する。近くにテントが有ったが、当然の様に触れる手は擦り抜けている。
やはり、魔術も機械も根本は同じなのだろうと。
「2036.11.9…」
「こっちの日付は2034.4.19。あっちは2035.1.2…」
「電子機器は、全部イカれてると見て間違いないね」
「紙のカレンダー探すか」
「ラジオで良いじゃん」
「…戦争時確かに、ラジオは重宝された。だが、今のこの爆撃の有様からすると、ラジオの放送機器もやられてると見て間違いない。…見ろ」
幾つもの衛星が、その姿を視認できる程近付いている。…これはつまり、衛星機器も動かなくなっている。
「…だが、見覚えがある。中央大戦の時と同じ風景だ」
「中央大戦で、彼女に何かあったの?」
「…それを見付けないと、ここから出られねぇんだろ」
「ゴメンねぇ、分かりきった事を言うのが楽しいからね」
「クソビッチ」
「雑魚童貞」
「水女」
「チキン」
「メスガキ」
「妄想オーガ」
「妖怪ストリッパー」
「アホ」
「ノロマ」
「サイコ」
「ボケ」
「「黙りやがれこの淫乱小兎!!」」
やっぱり、何故か安心する。
硝子の曇が晴れていく様な感覚。
それは向こうも、同じ筈だ。
俺達は、結局同じライナーズなんだ。
「…紅雪の処女、か」
「何?今更発情でもした?」
「あの巫女服…。見覚えがあった」
「…ENFORCERの?」
「セレナの故郷に、そんな服があった気がする」
確か本当に神社で使われていた筈だ。つまり、アイツの出生はそこかもしれないな。出生から足取りを追えば、何か分かるかもしれない。
「巫女ってのはね、白を大切にするの」
「アイツの髪も、銀じゃなくて灰色よりだったな」
「他にも、白蛇、純潔、御幣や祝詞にも白って含まれる」
「…白は、神の使いって奴か?」
「対して、白と言うのは昔から災禍の象徴でもある。疫病、敗北、死霊なんかがメジャーかな」
あの郷は白髪、と言うか全体的に色素が薄かったが、それは遺伝的な問題なのだろう。重要なのは、ENFORCERは白の他にも灰や銀が入っているのだ。仮にアレを巫女だとして仮定する。
巫女としては、白、は許容できるだろう。巫女として重要なモノを妊み、そして人間としてもつ二面性を併せ持てるからな。
だが、灰と銀はどうだろうか。銀は雪や対魔を表す。これは巫女として十分な素質だ。冷たさが残るが、まぁ人と神を繋ぐ仕事だ。仕方がない。
だが、灰は?こちらも、曖昧や雲散など掴みづらい印象を与える。こちらも巫女としては良い素質だ。本体がどうかは察するが。
「…忘れてるね」
「何をだ?」
「彼女の眼は、灰や銀じゃなくて紅。それも、蒼に変色する二面性」
カンフィールド鉱と言うものを聞いた事がある。水性鉱脈の金脈や銅脈、そして銀脈などから産出される鉱物だ。灰に赤味が射した色をして、錆びると青くなる。
そして、物凄く脆い。
アイツを象徴する雪。
それに通じるモノがある。
「…警報か」
「で、行く場所。決まった?」
「郷に行く。多分この時代なら、まだアイツは子供だ」
「んじゃ、行くとしますか」
避難用の電車に登り、春風の焼け野原を進む。




