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毛国王(the prolog version)  作者: 大浜屋左近
第二章 〜東山道の怪物〜
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第35話 ハグン

 勝負は一瞬であった。羅我は舟来彦が振り上げた剣の下へと潜り込むと、自らの剣で舟来彦の剣を外へ捌いて、宙を舞い、舟来彦の顎へと左膝を叩き込んだ。


 船来彦は意識を失い、天を仰いで、大地に横たわった。


 羅我は動かぬ舟来彦の胸に腰掛けると、力強く左の頬を張った。


「ここは何処だ」

 目を覚ました舟来彦は、事の次第が飲み込めず、周囲を見回した。


 自らの上に腰掛ける羅我に眼を向けると、

「負けたのか」

 と、微かに残る記憶を確かめた。


「自らの剣に相当自信が有るんじゃのう。過信。それが敗因じゃ」


「そうかぁ。初撃必倒。それだけを求めて剣技を磨いて来てよお。やっと、掴んだと思っとったんだけどなぁ」


「其方の様に、恵まれた体格で産まれた者は、皆、その様な世迷い言を宣う。剣技や体術は、私の様な持たざる者が、其方の様に持つ者を制する為に有るのじゃ。それでは約束通り、此度の戦では、其方には私の指揮下に入って頂く。ついでに剣技の弟子にして遣っても良いのじゃぞ」


「約束だで。ちゃんと、あんたの指揮下に入ったるわ。三百の兵も、あんたの言う通りに動かしたるで。でもよぉ、弟子の件は遠慮しとくわ。理想を追わぬ些末な男に魅力は無いでよ」


「分かる。そん通りだ」

 と、二人の遣り取りを聞いていた亀が大きく頷いた。

「ずばぁっと剣を抜いてよぉ。ぶんっと振ったら、相手が倒れてるってのが理想の剣だべ」


「甕依殿。その様な事を言って居ると、技を極めた手練れには敗れますぞ」


「羅我殿。実は、亀はあの賊頭に、科野の坂で斬られて居るのです」


「兄ぃは五月蝿い」


「甕依殿と舟来彦殿とは馬が合いそうじゃの。兎に角、明日は死ぬ事の無い様に、宜しく頼みますぞ」


・・・・・・・・・・・・・・・


 蒼と六騎の兵は藍見川を北上し、身毛の館を南東に見る川沿いの山中に潜んだ。蒼は、この六騎の兵と共に身毛を切り開いてきた。戦場で、常に六騎の前を駆ける蒼は、北斗七星の剣先に当たる破軍はぐん星を守護星と信じ、命を預ける六騎の兵を、貪狼たんろう巨門きょもん禄存ろくぞん文曲ぶんきょく廉貞れんてい武曲ぶきょくと北斗の七星の名で呼んで居た。


 夜明けと共に、蒼は動いた。

「廉貞、武曲、頼んだぞ」


「はっ」

 と二人は山を馳せ下り、藍見川へと消えた。


・・・・・・・・・・・・・・・


 一方、羅我を将とする三百余名の兵は、未だ周囲の暗い中で、翠が夜中に届けた飯を鱈腹喰らって、戦に備えて居た。


「皆の者、これ程の兵糧を頂けるとは何と有り難い事じゃ。本巣が豊かな証じゃ。これは全て本巣殿が土地を開き、賊を退け、皆が安心して稲作に勤しめる様にして頂いて居る御蔭じゃ。本巣殿に感謝するのじゃ。では、その恩は何時返す。今、成らず者の各務野が、我等が数多の血と汗を流して平らげた身毛の地に侵略し、奪い取ろうとして居る。この戦で成らず者共を退け、本巣殿の恩に報いようではないか」

 と、羅我が飯を貪る兵達を鼓舞した。


 すると、兵達は拳を天に突き上げ、唸りを上げて、羅我に応えた。


「おい、亀、程々にしろ」

 兎が、口の周りに沢山の米粒を付け、碗に齧り付く亀に注意した。

「それと、早く武具を着けよ」

 戦場に於いても、亀の愚図は変わらなかった。


「兄ぃ。舟来彦殿の方が俺よりも沢山喰ってんじゃねえか。もうちょっとだけ喰わせてくれよ」


「舟来彦殿は、既に武具を着けて居る。兜だけ被れば、直ぐにでも戦に駆け出せるべ」


 と二人が下らぬ遣り取りをして居ると、対岸に土煙を巻き上げ、大声で叫びながら、敵兵の間を馳せる騎馬が現れた。


 すると、それを見た羅我が、

「行くぞ。川の中程まで兵を進め、そこから漸時矢を放ちつつ、川向うへ進軍せよ」

 と号を発した。


 三百の兵は、碗を投げ捨て、弓を手にすると、船来彦の掛け声で、一糸乱れぬ美しい隊列を組んで川を渡り、川向うへと無数の矢を放った。

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