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毛国王(the prolog version)  作者: 大浜屋左近
第二章 〜東山道の怪物〜
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第12話 クニユズリ

 形名が館の中を進むと、奥には乙名子が座していた。


「まあ、座られよ。能く御越し下された、形名殿。話は乙鋤の伝令から伺っておる。倭へ行かれるとな」


「乙名子様。お招き頂き有難う御座います。はい。倭へ参ります」


 座した形名に、乙名子が語り始めた。

「毛野の主を継いだ其方には、洲羽と毛野の歴史を心に深く刻んでおいて頂きたい。本来ならば、其方は父上様より直々にその歴史を伝え聞き、主を継承する所であったが、其方の父上様は急に身罷られたと聞いた。歴史の真実は主にしか伝えられぬ。今回、我が、直々、形名殿に歴史を授けるが故、心して御聞き頂きたい」


「はい。分かりました。乙名子様」


「先ずは、始祖神。毛野の始祖神がオオナムチで有る事は、其方も知って居るな」


「はい」


「遠き遠き古き世。海を越えた彼の地より齎された稲を、この地に広めたのはオオナムチの一族であった。オオナムチの一族は稲を成せる場所を求め各地を耕し、広く、広く、この地の全てを治めるに至った。この洲羽の地も、其方等の毛野の地も、オオナムチの一族が耕した土地である。それ故、この地の全てには、オオナムチの血が流れて居るのだ。良いか」


「はい」


「次に我が一族の成り立ち。我等の母祖は、彼の地より、鉄を求めて北陸道 古志こしの地に辿り着いた。既に古志の地を治めていたオオナムチの一族は、母祖の錬鉄技術を大いに気に入り、オオナムチの一族と我等の母祖は結びついた。我等の錬鉄技術を取り入れたオオナムチの一族は未開の地を更に広く耕して行った。その後、我等の一族は古志を発ち、姫川ひめかわの流れに沿って洲羽の地へ辿り着いた。洲羽の地に辿り着いた我等の一族は、先住の洩矢もりや一族を従え、矢塚男やつかおの一族を滅ぼし、この地の王となった。その時の王の名はタケミナカタ。我等の始祖神だ。良いか」


「はい」


「次に其方等の一族と洲羽の一族との関わり。我が一族が古志から洲羽へ至る途中で一時を過ごした束間つかまの地で、一族の一部が、東へ向かう言い出した。彼等は、山を越えた東の地は未開であると信じていたのだ。が、東の地では、既に、木乃を出自とするオオナムチの一族が、地を耕して稲を成し、里を築いていた。古志と同様、毛野においても、我等の錬鉄技術は必要とされた。我等が生み出す鉄の道具は、広大な毛野の葦原を瞬く間に耕地へと作り変えた」


「はい」


「形名よ。ここからが本題だ。倭連合王権を作り出したアマテラスの一族と我等オオナムチの一族の関係について話す。先ず、スサノオ。これは作話だ。スサノオはオオナムチの父祖ではあるが、アマテラスとスサノオの間には何の関係も無い。有るとすれば、彼の地よりこの地へやって来た者と言う事のみ。スサノオはアマテラスの乱暴者の弟などではない。全ては我等を従属させる為の、倭の方便」


「えっ、毛野と倭は、同祖ではないのですか」


「そうだ。そして、アマテラスの一族は侵略者だ」


「えっ」


「元来、倭を治めていたのはオオナムチの一族であった。ある時、彼の地から大船団を率いて渡って来たアマテラスの一族が、倭に襲撃を仕掛けた。オオナムチの一族は、暫くの間、その攻撃を退けて来たのだが、長引く戦は耕した大地を荒廃させた。民は食に事欠き、希望を無くし、オオナムチの一族は和平を受け入れる事とした。和平の宴を開かんと、オオナムチの一族は、アマテラスの一族を館へと招き入れた。酒宴が盛り上がり、皆々、酔いが回ってきたところで、突然、アマテラスの一族は牙を剥いた。酒宴の席は真っ赤な血で彩られ、オオナムチの一族は皆殺しにされた」


「酷い」


「オオナムチの一族を排したアマテラスの一族は、倭を支配した。彼等は各地に散らばるオオナムチの一族に従属を求めた。当然の如く、この洲羽へも従属を求める使者が遣って来た。当時の洲羽の主は猛き戦士で、使者の首を刎ね、倭へと送り返した。怒ったアマテラスの一族が派遣したのは、タケミカヅチの一族であった。タケミカヅチの兵力は圧倒的で、彼等の用いる剣の鋼は別物であった。彼等と剣を交えると、我等の剣は、悉く、砕け散った。我等は、アマテラス一族の支配する倭に従属を誓い、以来、毎年、貢物を届けて居る」


「それは真の話ですか。信じられませぬ」

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