3:集団お見合い・2
要するにお見合いパーティー的なものをやるようです。
「お父様。先ずはコンセプトが必要ですわ」
「こんせぷと? とはなんだい?」
お父様が聞き慣れない言葉に首を傾げる。
「例えば、お父様。夜会を行いたいと思います。その際、他家には無い形にしよう、と考えますなら、どうなさいます?」
「成る程。独自性を打ち出すのか」
「そうですわ。目標を立て、その目標を達成するならば、どのような事をすれば目標が達成出来るのか。効率重視。多いに結構ですわ。でも効率のみを追い求めますと、差し支えも出ます。特に、こういった人と人との結びつきを大切にする場合は」
「ふむ。言いたいことは分かる」
「ですから、コンセプトが大切なのです! コンセプトとは一貫性、ですわ。最初から最後まで一貫してコレというものが必要ですの! 先程の夜会で行けば、花としましょうか。薔薇をコンセプトにする、と決めれば、白・赤・黄色・紫……色だけでも沢山。品種も有りますわ。花弁が幾重にも重なっているもの、白から赤に色が変わるもの、香りの強いもの、弱いもの……」
「ふむ。こういった事をやる、と打ち出すわけだな。確かに仕事だ」
「で、なのですが。お父様にお尋ねしたいのですわ」
「なんだ?」
「私、夜会に出席した事が有りませんので、通常の夜会とは、どういったものなのか、教えて下さいませ」
「そうだな。軽く摘める菓子が置いてあって、基本的にはダンス。疲れたら菓子が置いてあるテーブルに腰掛けて会話する。そういったものだな」
なんて、つまらないんだ……。
「その会話って男性は仕事。女性は流行ですか?」
「まぁそうだな」
「つまらないですわね」
「そうか?」
「ええ、とても。例えば、お菓子だって、各家の料理人が作るものですわよね?」
「そうだね」
「変わりばえしないのでしょう?」
「クッキーとクラッカーだな」
「有り得ませんわ……。私の前世ではお菓子が豊富でございました」
「ほぅ? それは興味深い。例えば?」
記憶を取り戻してから、この世界のお菓子の少なさに唖然とする。というか、前世の記憶持ちが多いのに、何故、誰もお菓子改革をしていないのさ!
ケーキにチョコにゼリーにキャンディー。プリンやコーヒーゼリー。パフェやホットケーキ。和菓子なら大福や饅頭。餡子餅やきな粉餅だって和菓子だろう。
なんで誰もそういうの、考えていないのよ! そんな事を思いながらお父様に話せば、甘いもの大好きなお父様が目を輝かせた。……こういう顔を見ると、とてもじゃないけどやり手の大臣に思えませんわー。
「なんだ、随分豊富だな。作れるか?」
「材料が有るかどうかわからないので、何とも」
そう答えてふと思う。もしや、材料が無いから皆さんお菓子改革をしていない、とか?
「材料か。どういった材料が必要なんだ?」
取り敢えず私は、クッキーが有るので、ケーキの材料を話してみた。
「それなら集めやすそうだな。なまくりぃむというのが分からんが」
……成る程。生クリームが無い可能性があるのか。生クリームが有ると、お菓子の幅が広がるよね。卵や小麦粉は有るんだし、牛乳もある。砂糖……と考えて、ハタと気づいた。
あれ? 砂糖って確か、価値が希少レベルじゃなかったっけ? もしや……気軽に砂糖を手に入れられないからお菓子改革が、出来ない?
「お父様」
深刻な表情で呼びかけると、お父様も釣られて顔が深刻になった。
「なんだ?」
「砂糖が高いので、作れない、かもしれません」
私が重々しく事態を告げれば、お父様はこの世の終わりのような表情に変わられた。
疲れた頭には糖分が必要。
疲れた体には酸味が必要。
美味しい物は正義です。




