15・結婚式は自分らしく・1
トントン拍子とはこういうことを言うのか。
遠い目になってしまった自分は絶対悪くない。いやだってさ、婚約だってビックリという私がよ? 前世でも結婚はしたことなかった私がよ?
公爵家の別邸を建てるって話になってアーセス様と並んでどんな屋敷がいいのかって話をしているとは思わないじゃん。今ここ状態よ。
「ターナ? 何を呆けてるの?」
「お嬢様、何を呆けていらっしゃるのですか!」
「ターナ、どうかしたか?」
上からお母様、専属侍女、アーセス様。
……いや呆けたくもなるよね。建築士と顔を突き合わせてどんな別邸がいいのか、なんて三人が盛り上がっているんだからさ。
一応私とアーセス様の家になるわけだけど、私よりも三人で盛り上がっているわけよ。私? 置いてきぼりですがなにか?
というか、口を挟む間もないし。
本邸を参考にして建てましょう、とか言うお母様。本邸のミニ版みたいになりかけてるんですけど。そんなに大きくなくていいよって言っている側から侍女が、公爵家の別邸なんですから、大きくなくちゃダメですよ、とか言い出すし。
それに便乗してアーセス様が別邸にかかる費用くらい私や両親が支払えるから遠慮しないでいいよ、とか言うし。誰も遠慮してないよ。本邸よりは小さくても、建築士の人が裕福な男爵家の屋敷並みの大きさですね、とか言っているのを聞いたらそこまで大きくなくてイイって思うじゃん。
平民並みとは言わないからせめてもう少し小さくてもいいよ。って言っているのに、公爵家の威厳の問題とか言われたら口出し出来ないじゃん。
だからもう、口を挟む気になれないよね。
「私の希望は私の部屋は日当たり良いとこだから」
シンプル過ぎる発言にお母様と侍女が揃ってそれだけなんてつまらない、とか言い出した。いや、なんでよ。日当たり大事だし。窓は言わずとも大きくなるみたいだし。屋敷も派手じゃなければ外観なんて気にしないし。
「ああ……あと、庭師雇うからお庭は欲しい」
「そんなの当たり前じゃないの!」
私が折角「もっと何かないの?」というお母様の質問に応えてリクエストしたと言うのに、お母様が当たり前だ、と頬を膨らませてる。
お腹が大きくなってきたお母様がそんな表情をしていると、違和感があるんだけど。まぁ見た目は私とそう変わらないからこんな表情していてもおかしくないんだけども。それにこの世界では違和感じゃないのも分かっているんだけどさ。
勝手に私の違和感が仕事してるだけだしね。
「他に何かってあまりこだわりないし。内装もシンプルならそれでいいし。あまり派手にしてもね、百年くらいは住む家でしょう。飽きたら終わりだから飽きないデザインで良いと思っているの」
拗ねているお母様にそんなことを言えば、それもそうね、と変わり身早く納得してる。まぁ納得してくれてありがとうございます。
「確かにお嬢様の仰ることに一理ありますね。今は良くても百年後に飽きてしまったら嫌ですもんね」
侍女もウンウンと頷くが、アーセス様が余計なことを言い出した。
「飽きたら建て替えればいいよ。それくらいの甲斐性あるし」
……これだから生まれながらの金持ちは。
いや、私もそうなんだけども。前世の記憶が蘇ってからは、金銭感覚も庶民に近いせいか、金持ち発言には反発したくなるんだよね。
「アーセス様、折角長く暮らす家なら飽きない家の方がいいと思いませんか? 飽きたら建て替える、ではなくて飽きない家」
これで丸め込むことは出来ないかもしれないけれど、私の意見として伝えると、アーセス様がふむ、と考える。
「そうですね。飽きない家、か。それがいい」
アーセス様も丸め込まれてくれました。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




