11・安易な約束はするもんじゃない・6
「ありがとうございました。確かに私の仕事に役に立ちそうです」
文具店から出て(ノートとペンは気に入ったので購入した)アーセス様に頭を下げる。
「いいえ。お役に立つならそれでいいですよ。さぁ次はですね……」
「次?」
私の中でこれで勝手に終わりだと思っていたのでついそんなことを口にしてしまう。
「ええ。まさか、デートなのにこれで終わりだなんて思ってないですよね? ターナ嬢の仕事に役立つお店を教えましたが、そのご褒美をもらっても良いと思いませんか?」
うっ……。すみません、これで終わりだと勝手に思ってました。そして安易な約束はするもんじゃない。と思ってます。神様に続いてアーセス様にもそんなことを思ってしまいました。
「デート、します……」
ガックリしながら続行を告げるとアーセス様が肩を震わせて笑っている。
「な、なにか?」
「いえ。なんていうか。自分で言うのもなんですが私は女性からデートに誘われる方でして。まぁ相手が居ない時に何度かデートしたこともありますが、自分からデートに誘ったことって無かったんです」
「はぁ。まぁアーセス様の外見でしたらそういうこともありそうですよね」
「ええ。そんな私の見た目だけに惹かれて恋人になりたいという女性たちが多かったです。でも、私は自分で自分のことを結構性格が悪いと思っていますし、常に優しいなんて無理ですし、相手に意地悪をしてしまいたくなることもあります。でも、そんな私を私じゃないって決めつけて別れを切り出す女性もまた多くて。だから最近では、私のことを知らないのに勝手に美化して幻滅する女性たちに鬱陶しく思っていたのです」
ああ、まぁあるあるだよね。優しそうな顔をしてるから優しい人だと思っていたら違った的な。
私があるあるだわ、と頷いていたらアーセス様が続ける。
「正直なところ、ターナ嬢とのお見合い話があった時も、そういう女性だって私も勝手に決めつけてました。でも。会ってみたらそんなことが全くない。私の見た目は確かに気にしてくれたはずなのに、だからと言ってその見た目をなんだか美術品鑑賞のようにしか見てこない。更には私がデートに誘っているのに断るし、直ぐに帰りたそうにするし。こんなにも私の外見や勝手な美化像も何もない女性が居るなんて思ってもみなくて。とても楽しくなってしまって」
それで思わず笑った、と。まぁ顔がイイから許される発言だよね。そして自信満々に言えるくらいの顔なのも確かだよね。でも前世の記憶を思い出した私からするとアーセス様は弟みたいな感覚でしかないし。顔はイイから美術品鑑賞というアーセス様の勘は外れてなくて、本当にそんな感覚でしか見てないなぁ。
「そうでしたか。まぁアーセス様の顔は好ましいので美術品鑑賞の気分なのは確かです」
本人が気分を害してないようなので肯定する。
「本当に正直な方ですね……。やっぱり私はターナ嬢を諦めたくないですね。ターナ嬢、他にお見合い相手が出てきても私が蹴散らすので、私と結婚しませんか。こんなにも私に対して理想も押し付けず、私の顔だけに夢中になることもなく、ただの私として受け入れてくれるあなたが良い」
突然の重たい話に、頭が真っ白になる。いや待って。何故そうなる?
「ええと。仕事ありますし」
「構いませんよ。続けてくれれば」
「私の母が妊婦だとご存知ですよね? 弟だったら婿に入れませんが」
「ターナ嬢が婿を迎えることになっても婿入りしますし、婿を取らないで嫁ぐとしても、私は騎士爵持ちですから問題無いですよ。私は公爵家の婿に入ろうと思って求婚しているわけじゃないので」
なんとか求婚を逃れようと頭が回らないけれど、ポツポツと拒否する理由を並べ立てる。でも却下されまくってる。ええとどうしたらいいのかしら。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




