8:結婚式ってイベントなんだよね。・8
お父様は「話は以上だ。後は当人同士で話し合え」と退出を促してきた。
こんな気まずい気持ちのままで放置するとか、本当にデリカシーの無い男だなぁ。お母様にきっちり報告どころか、執事にも報告しておこう。執事にも私の味方になってもらう。
とはいえ、今は執務室を追い出された私とアーセス様のことだ。困った。こういう場合、いきなり仕事の話題ってわけにはいかないよね。
とはいえ、結婚式の準備に追われている状況なのも確かだし。出来れば話を詰めたいのも確か。
「システィアーナ様、お送りします」
アーセス様、めっちゃイイ人! 私が困っているのに気付いて何も言わないでエスコートしてくれてる⁉︎ いやぁ、だからといってそれに甘えるわけにはいかないよね。取り敢えず、まずは謝罪からか。
「アーセス様」
「歩きながらでも話せますよ」
私の固い声に言いたいが分かるような声で、そう伝えてくる。エスコートに合わせて歩き出して先程の声に勇気をもらい、謝る事にした。
「アーセス様がお見合い相手の方だと知らず、すみませんでした」
「いえ。元々父が公爵様に釣り書きを送っていただけのことでして。ただ、その、システィアーナ様がお断りした理由が分からなかったので、他に良い条件の方が居たのだろうと納得しただけで。だから、私の名前すら知らないとも思わず、自己紹介した時も気まずくならないように笑顔を浮かべて下さったのだと思い、私も何も言わなかったものですから驚かせてすみません」
私が謝ると、それ以上に彼が恐縮してくるので、本当に申し訳ない気持ちになる。
「誰だから、見合いをする、ということではなく。実は見合いをしないか、とお父様から尋ねられた時に前世の記憶が蘇りまして。それからとある事情により、私は他者の結婚を応援する仕事を始めましたので、自分の見合いも婚約も後回しにしましたの。お父様も理由を聞いて納得して頂きましたから、以降はどなたからも見合いの話が来ているとは聞いておりません」
ミャルカと話していて、どうも自称神様のことは簡単に話さない方が良さそう、と思い、事情があって見合いも婚約もしてないんですよ、と伝えておくことにする。
アーセス様が気にして、自分に非があるから見合いを断られた、と思われても申し訳ないし、それか尾を引いて別の良い縁談をアーセス様が断ったとしたら、更に申し訳ないからね。
「つまり、私が平民になっている……いえ、今は騎士なので騎士爵を頂いておりますが……そのことが嫌だということではないのですか」
「私との見合い話が出たのは、私に婿を取る方向性でお父様が考えていた、或いは釣り書きを下さったお家の方が婿にどうかと打診されたからでしょう。アーセス様は成人されて嫡男ではないから伯爵家がご実家で現在は後ろ盾という事でしょうが、平民に身分が移行したことは理解してます。現在騎士様なら騎士爵という貴族になられたことも。そして、前世を思い出す前の私も今の私も一度平民になられたから……ということは気にしませんわ。大事なのはお人柄ですもの。ですからそこが問題なのではなく、私はこの仕事を成すことが大事なのです。それ故に見合いを断り婚約者も不要だとお父様にお願いしたのです。アーセス様のことではなく、私個人の問題ですわ」
そうか。自己紹介で伯爵家の次男とかそういうことを言っていたのは、私が平民に身分が移行されたことのあるアーセス様を受け入れたくないから見合いを断られたと思ったのね。
そうじゃないんだよ、と伝えておこう。
婿入りが出来れば貴族のままでいられて平民に身分が移行されなかっただろうけど、でもご自分の実力で平民から再び一代限りとはいえ騎士爵を授かった……つまり貴族の地位を得たのだから、それは凄いことだよね。
ただ、もしも私と婚約したとしても、私はもうすぐお母様が弟を産むから、婿入りする旨味が無くなるからなぁ。
……あ、でもそこまでは話さなくていいのか。もう断った話だしね。
アーセス様に良い縁談が来ますように。
……ん? あ、そうか。折角だからアーセス様の縁談相手も私が探せばいいのか! そんで結婚まで見届ければ、自称神様……どうにもあんだけ軽いと本当に神様なのか疑ってしまうんだよな……との契約? 約束? を守れるもんね!
見たかった騎士を見て、おまけにエスコートまで受けたし、よし、ここは一つ、アーセス様のために一肌脱いで差し上げます!
お読み頂きまして、ありがとうございました。
今回の話で50話だと気付いたので、ストック作ってみました。記念に。
そんなわけで神様との約束で見返りとしてターナが所望した騎士様を見る、ですが。
折角なので見るだけでなく(笑)関わらせようと思い登場させました。
アーセスです。魔法使いはまた後ほど出てきますが、暫くはミャルカさんの結婚式関連のターンです。
アーセスには車夫さんを頑張って貰う予定。
次話は来月更新します。




