6:そんなわけでセミナー開催・4
オトウサマにお願いしようと執務室に突撃したら凹んでた。なんで。執事を見たら、コソッとお母様にウザがられたと教えてくれた。……ざまぁ。
「オトウサマ、お母様に相手にされないからって凹むのは後回しにして下さい。お仕事のお話です」
お仕事の単語に顔を上げたが、見事に窶れてる。
「仕事……」
「あれ、仕事ならば容赦しない、とか何とか言ってたの、誰ですかね。というか、今までお母様と散々すれ違っておいて、私が生まれた事が奇跡っつうくらい、素っ気なかったくせに、想いが通じ合ったからってベッタリしていたら、そりゃあウザイですよね。それまでのすれ違いというか素っ気なさを何処に捨てて来たんですか。執事を始めとした使用人達どころか、娘の私から見てもウザイし、鼻で笑う勢いです」
フン、と鼻で笑うのではなく、鼻を鳴らしてやる。執事がコソッと「さすがお嬢様!」 と褒めて来た。
「う、うざい……?」
オトウサマは目を白黒させている。
「鬱陶しいって事ですよ。お母様にベッタリしていて鬱陶しいんです。あんまりベッタリしてると嫌われますよ」
「それは嫌だ!」
「じゃあちょっとはまともな頭になって、私とお仕事のお話をしてくださーい」
「ターナ、最近、言いたい放題だと思うんだが。お前はもう少し大人しい子じゃなかったか……?」
「前世の記憶が蘇ったって言ったでしょう。言っておきますが、前世で死んだ年齢、お父様と同じ年齢かそれより上ですよ。前世でも結構いたんですよねー。仕事ができる男、と自分を評価しておいて、女性の事となるとダメダメな男。仕事が出来るなら引き際も肝心でしょう。お母様に嫌われたくないなら、ベッタリしないで、お母様が頼った時こそ世話を焼くくらいで丁度いいんです。お母様の様子を見て、何をすれば良いか察する能力って仕事でも使うでしょう」
「そう、だな」
「はいはい、解ってくれたならお仕事の話です。女性の教養がちょっとレベルが低いので、教養力アップのために、専門の先生を呼びたいので、お父様の人脈使って講師を招かせて下さい」
「教養の専門……?」
「音楽の歴史とか他国の流行とかに詳しいような方ですかね。後は絵画とか彫刻とか。知識や教養は有っても邪魔にならない。なんだったら王城のメイドさんや侍女さんを講師にして礼儀作法を勉強しても良いと思うんですよ。有っても無駄にならない事で、男女の会話も広がるし、礼儀作法を改めて覚える事で、仕草が綺麗になるから他人の目も気にならないですしねー」
「ふむ、成る程な。ターナは、前世の記憶を思い出してから、その仕事ぶりは私も感心するぞ」
「ありがとうございますー。じゃあご褒美に騎士と魔法使いに会わせて下さい。あ、別に会わなくても遠くから見るだけでもいいです。それだけでヤル気出ますから」
「それはまた今度だな」
そんな会話を続けながら、お父様はサラサラと紙に名前を書き出していき、この辺りの者ならば、講師として教えるのにうってつけだろう、と紹介してくれた。
……いや、紹介だけじゃなくて、話を通してよ。えっ? その後の事は自分でやれ? 仕事なんだから?
ハイハイ。
紹介してくれて、どうもありがとうございますー。頑張ってアポ取って講師依頼してみますよー。その際の謝礼金はお父様に支払ってもらおう、と決意して執事にアポを取る手紙のチェックをしてもらいながら、何人かに依頼をした。
結果から言えば、全員オッケーだった。
どうやら、皆さん、自分の専門分野について語れる機会に嬉々としているらしい。……オタクか。あまり詳しく話すとついていけないから、基本的な事に留めておくように釘を刺す必要が有るやつだな。




