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3:集団お見合い・6

政略結婚のターナの両親。

実は……ってヤツです。

ところで。珍しく政略結婚でくっついた私の両親。お互いに興味が無いのか、お父様は仕事に邁進し、お母様は夫人として家の中を取り仕切る事と社交に精を出され、且つ孤児院への寄付と慰問を精力的に行っている。つまり2人とも常に忙しいので、こうして2人が揃っている所を一人娘である私が見るのも久しぶりだ。夜会はパートナーが居れば、パートナー同伴が基本だが、まぁ婚約者の居ない若者や独身者が多いため、2人揃って夜会にも大して行かない。


故に、2人とも顔を合わせるのは2年か3年ぶりじゃないのか。


寝室すら別だ、と使用人から聞いている。生活サイクルが噛み合わないというより、お互い忙し過ぎて寝に帰って来ているだけ……というところも有るようだ。お互いを起こさないように、と寝室も別になったらしい。仲が悪いわけじゃ無いのは、幼い頃から知っていた。顔を合わせれば、互いの近況報告くらいはしている2人だから。


「あなた」


「う、うむ。久しぶりだな」


お母様がお父様に話しかける。お父様、吃ってますよ。


「本当に。……お元気でした?」


「うん? そ、そうだな。元気だった。そなたは?」


「私も元気ですわ」


……何、この、中学生の付き合い初めみたいな初々しい空気。前々から薄々気付いてはいたけどさぁ。お父様、めっちゃ、お母様が大好きでしょ。えっ、仕事の出来る鬼とかって人が、自分の妻が好き過ぎて対応出来ないとか何それ、ウケるんだけど。


目線が泳ぎまくってるし、顔には出ていなくても耳は赤いし。中学生かよ⁉︎


っていうか。お母様も、貴婦人の中の貴婦人とか言われて、何事にも動じない凛とした淑女とか言われて、表情も常に微笑みを絶やさないとか言われているけど、お父様を見たら、やや顔を赤らめてモジモジしてるって、乙女かよ⁉︎


お母様付きの侍女に、チラリと視線を向けて会話を試みる。


『もしや、お父様とお母様ってお互いが好きなの?』


『左様でございます。ご結婚されてから徐々に距離を縮めていらっしゃるのですが、お互い、相手は政略結婚だから……と遠慮していらっしゃるようで』


『えっ。もしかして、お互いに自分の片想い。って思ってるとか?』


『はい』


『……えっ。2人共何歳? 私より年下の子どもみたいなんだけど』


『お嬢様……。それだけは言ってはいけません。私共、使用人一同も、この進展の無さに50年以上黙って見守って来ております』


『良く見守ってきたね……』


『とっとと気持ちを打ち明ければ良いのに、と何度思った事か。……失言でございました』


『私に任せてくれる気は?』


『使用人一同、心からお願い致します!』


『任せて!』


という内容を目線でやり取り出来るのは、難しいので、多少表情や動作も入っていたのはご愛嬌だ。


「お父様。お母様」


「なんだ?」


「どうしたの?」


「ちょっとこの庭を2人で過ごして来て。それも恋人同士みたいに寄り添って」


「こ、恋人⁉︎」


お父様、声を裏返さない!


「夫婦なんだから別に良いでしょ。雰囲気を知りたいの。お父様、私の仕事を手伝ってくれるって言ったよね?」


ちなみに、前世の記憶を取り戻してから、私は口調が崩れっぱなしだ。まぁ別に咎められないからいいけど。淑女教育とか、そこまで求めてない両親だし。


「しかし、だな」


「何。お父様はお母様がお嫌いなの?」


「違う! こんな仕事ばかりで妻に贈り物一つ満足にしてやれん朴念仁の私と結婚し、支えてくれている妻を嫌うわけ無いだろう! わ、私が嫌われるならともかく」


「あ、あなた。何を言うのです! 私みたいに社交に精を出すような奥ゆかしくない女では、あなたに相応しくないでしょうが、私があなたを嫌うわけないですわ!」


「そ、そうなのか?」


「もちろんです! 私は、あなたの妻になれて幸せなんです。す、好きなのです。政略結婚だとしても」


「わ、私もだ。その、いつもありがとう。妻を喜ばせてやれぬ夫だが、私の妻はそなたしかいない」


「あなた……」


ハイハイ。そこで両手を握って見つめ合うのは構わないけど、私の仕事を手伝えー!


私が咳払いをすれば、ハッとなったお父様は、お母様をエスコートして日本庭園に行ってくれた。


「あなた達、苦労したわねぇ」


お母様付きの侍女を含め、執事や上級使用人達をグルリと見渡す。全員、ようやくこの日を迎えたか、とばかりに、溜め息をついた。


「お嬢様! ありがとうございました! 本当に旦那様と奥様には、いつ、想いを打ち明け合うんだ、と、使用人一同思っていました!」


執事が頭を下げる。あー、うん。気持ちは分かる。最初は微笑ましいんだけど、段々イライラするんだよね。


「まぁようやく打ち解けたんじゃないの。ところで、皆、どう思う? 中々にこの庭園は素敵でしょ?」


使用人一同が深く頷いてくれた。

何しろ、2人で寄り添って、と言ったせいか、寄り添って見つめ合っているだけなんだよ、この両親。もっとさぁ、景色見るために動くとか、語らうとか、無いのかよ。って思ったんだよね。だから使用人さん達に聞いた方が手っ取り早かった。

おまけ。


お互いを気遣って別にしていた寝室は、その日の夜から夫婦の寝室を再び使用しているらしく、娘としては両親の仲が良いのは嬉しいけど、微妙な気持ちもある。


更に、翌朝、朝食の席でお父様がやけに上機嫌で鼻歌混じりだった事と、お母様が朝食の席に居ない事を考えるに、どうやら相当燃え上がった夜を過ごしたらしい。

結局、お母様はお昼まで起きて来られない上に、足腰がプルプルと震えていて、私と使用人達は生暖かい目になってしまった。娘と使用人達からそんな目を向けられたお母様は、居た堪れなかった様で、やけに早く仕事から帰って来たお父様に抗議していたようだけど、お父様は全く聞いていない様子だった。


そして翌日も、お父様は上機嫌かつなんだかお肌がツヤツヤしていて、あー、うん、そういう欲を吐き出すと、男女問わず肌のツヤが良くなるとは言うよね……。と私は、お父様を生暖かい目で見た。

お母様は、その日はとうとう1日中ベッドの上の住人で、どうやらお母様が抗議出来る程、元気なのを見て、お父様は調子に乗ったらしい。……手加減してやれよ、オヤジ。


目下の使用人達の悩みは、ベッドのシーツが余りにも凄いので、いかにして綺麗にするかだ、と言う。

ちなみに私の目下の悩みは、この年で弟か妹が産まれて来るかもしれない、というものだった。

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