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九州自動車道・肥後トンネルの犯罪  作者: にちりんシーガイア
第二章
2/9

トンネル爆破魔

 ネクスコ西日本熊本高速道路事務所は、九州道のみやま柳川やながわインターからえびのインター、九州中央道の嘉島かしまジャンクションから益城ましき本線料金所、そして南九州道の一部である、八代日奈久(ひなぐ)道路の管理等を行っている。

 その事務所は、八代インターの料金所横にあり、所長は唐峰からみねという男である。中肉中背で、典型的な四十代と言う感じの容貌である。

 彼は、九州支社から、肥後トンネルの爆破予告の件について連絡を受けた。

 唐峰は、事務所に居た交通管理隊員を全員呼び出し、事情を説明した。

 その後、説明を受けた隊員らは、四輪駆動のパトロール車に乗り込んで、管理隊長の牟田むたをはじめ、一斉に肥後トンネルへと向かった。

 九州道下りの、八代ジャンクションから人吉インターまでは、もうすでに通行止めの対応がされていた。

 八代ジャンクションには、カラーコーンが配置されていて、南九州道の日奈久方面にしか分岐できない様になっていた。

 だが、牟田たちの乗ったパトロール車は、九州道を直進させてもらった。

 車は見渡す限り見当たらず、短いトンネルを何度も抜けていった。

「人吉まで、車は一台もないんですかね?」

 隊員の一人が、きいた。

「いや、肥後トンネルの入り口で、立ち往生している車があるはずだよ。トンネルの信号機が赤なはずだから、身動きの取れない車がそれなりにあるんじゃないかな」

 牟田は、そう答えた。

 十番目のトンネル、登俣のぼりまたトンネルを抜けてしばらくすると、数十台の車列が見えてきた。

 これが、牟田の言った、立ち往生中の車だろう。

 パトロール車は、路肩によって、連なっている一般車の横をどんどん抜けていった。

 信号機の停止線を越え、ちょっとトンネルの内部に入ったところで、牟田らは車を停めた。

 鹿児島高速道路事務所からの応援も合わせて、四十人の交通管理隊が肥後トンネルに集結した。

 交通管理隊員らの到着後の僅か後、出動を要請していた、熊本県警機動隊の爆発物処理班も到着した。迷彩色の防護服に身を包んだ班員が、ぞろぞろとバスから降りてくる。

 ネクスコ西日本の交通管理隊と、熊本県警の爆発物処理班は、肥後トンネルの〇メートル地点、千五百メートル地点、三千メートル地点、四千五百メートル地点の四地点に分かれ、トンネル内を隈なく点検することにした。

 地面、壁、天井、路肩に続いている避難用の歩道など、あらゆる場所にライトを当てて、不審物がないか細心の注意を払う。

 特に、非常駐車帯に関しては、念入りに点検をした。犯人が、そこに車を停め、爆弾を仕掛けた可能性が高いからである。

 点検は、一〇時半頃に開始されたが、それから二十分が経ち、時刻は十時五〇分を回った。

 牟田は、いまだに爆弾らしき不審物は見つけることができず、見つかったという報告もない。

 彼は、点検中の交通管理隊に、安全な場所に身を寄せるように指示を出した。もし、一一時に爆発を起こすという犯人の脅迫が本当ならば、間もなくその時刻になるので、隊員の安全を確保するためである。

 牟田は、彼の腕時計の針が、少しずつ動くたびに固唾かたずを飲む思いでいた。短針が、どんどん一一の数字に近づいてゆく。

 彼は、小規模な爆発であってほしいと願っていた。

 車は一台も走っていないし、小規模な爆発であれば、トンネル内の損傷はそれなりに少なくて済むだろう。

 その反面、大規模な爆発であったらどうしようという不安も大きかった。

 人が死なないにしても、トンネルに大きな爆発の爪痕が残ってしまう。簡単な復旧作業では、とうてい復旧できず、長期間の通行止めも余儀なくなるかもしれない。

 時計が一一時丁度を指したとき、牟田は、思わず目を閉じた。手で頭を押さえ、ふさぎ込む。

 不覚にも、心臓にまで響くほどの、大きな衝撃を伴う爆発音の幻聴がした。そして、辺りの状況がつかめなくなるほどの真っ赤な炎に包まれている幻覚もである。

 だがそれは、ただの幻聴や幻覚でしかなかった。

 おそるおそる顔を上げ、目を開いた牟田だが、そこに広がるのは、何の変哲もない肥後トンネルの内部の景色である。

「隊長、爆発していませんよ!」

 隊員の一人は、思わず声を弾ませた感じで言う。

 牟田は、腕時計を確認した。一一時丁度は、もう過ぎている。

「何だ、やっぱりいたずらだったのか?」

 彼は、そう呟きながら、業務用の携帯電話で、福岡の道路管制センターへダイヤルする。

「何かあったのか?」

 電話口の向こうの萩島は、いきなりそう尋ねた。

「いえ、何もありませんでした。一一時を過ぎましたが、爆発は起きませんでしたし、他に不審なことも特にありません。トンネルの通行規制ですが、もう解除しますか?」

 ここで、少し沈黙があった。

「いや、それはちょっと待ってくれ。こちらの方で、今後の対応を検討したいと思う。結論は、後で君に伝えるから、それまでに通行規制を解除することはやめてほしい」

「了解しました」

 牟田は、そこで電話を切った。

 彼は、外の空気が吸いたいなと思い、トンネルの入り口付近にまで戻ってきた。

 特に意味はないが、規制解除を待ちわびる車列をぼんやりと眺めながら、腕組みをしていた。

 すると、前から三番目か四番目かくらいに停まっていた、黒い普通車の扉が開いた。

 運転席から女が降りてきて、彼女はこちらの方へ歩いてくる。

 牟田の前で立ち止まった。顔が整っていて、髪が長く、スラっとした体型の美人である。

「どうかされましたか?」

 彼は、そう声を掛けてみた。

「あなたは、警察の方?」

「いえ、ネクスコ西日本の交通管理隊の牟田というものですが?」

「この交通規制は、いつになったら解除されるのかしら?」

「今、点検が終わって安全確認中なので、もうすぐ解除できると思いますよ」

「そう、出来るだけ早くお願いね」

 女は、そう言い放って牟田に背を向けた。再び車の方へ戻っていく。

 牟田は、車の中で一時間近く待たせられているのだから、いつ規制解除されるのか質問するのもおかしくないと思って、特に気にしないことにした。

 一方、太宰府インター傍にある道路管制センターでは、肥後トンネルの通行規制を解除するか否か、議論が行われいた。議論していたのは、支社長の川島、センター長の萩島と数名の管制官、そして福岡県警捜査一課の高橋たかはし警部もいた。

「一一時を過ぎても、爆発は起きなかったんだろう?それなら、あの脅迫は、イタズラだったという事なんじゃないか?だから、もう肥後トンネルの規制は解除していいと思うがね」

 川島は、同意を求めるような感じで言った。

「規制解除に関しては、少しだけ懸念があります」

 少し言いにくそうに発言したのは、萩島である。

「それは何故かね?」

「犯人の狙いが、テロといった大量殺人だとしての話ですが、あの一一時に爆発するというのは嘘の可能性があると思うんです」

「つまり、違う時間に爆弾が爆発するというのかね?」

「ええ。大量殺人が目的なら、犯人は、あくまでも肥後トンネルを一般車が通行中に爆弾を爆発させたいはずです。だから、一一時に爆発するぞ、と嘘の脅迫をするんです。ですが実際には、時限爆弾の時刻は一一時半だとか、一二時にセットされているかもしれません。一一時に爆発しなければ、我々がイタズラだったと安心して、肥後トンネルの通行規制を解除するだろうと計算したのかもしれません」

 萩島が、彼の意見を説明した。

「うーん」

 川島は、うなりながら考え込んでいた。結局、彼は結論を出しきれずに、

「刑事さんは、萩島君の考えをどう思います?」

 と、高橋に助け舟を求めた。その高橋も困り顔で、

「犯人の動機が分からない今、正しいかどうかを判断するのはちょっと──」

 と、掛けている眼鏡をずらしながら言った。

「やはり、そうですよね──」

「もう一度お聞きしますが、本当に心当たりはありませんか?例えば、最近社員をリストラさせたとかです。逆恨みしたその社員が、犯行に至った可能性は大いにあります」

「辞めた社員はいますがね、定年だとか、一身上の都合だとかで、そんな物騒な理由で辞めた社員は、私の記憶にありませんな」

 川島は、答える。

「他に思い当たることもないんですね?」

「ありませんねえ。たまに、苦情の電話も数件ありますが、渋滞をどうにかしてくれとか、サービスエリアになぜこれがないのかとか、事件になるような苦情じゃありません」

「そうですか──」

 高橋は、溜息をつく。

「それで、我々はどうしたらいいでしょう?もう爆発は起きないと判断して、トンネルの通行規制を解除すべきなのか、それともまだ爆発は起こるかもしれないと思って、トンネル内の点検を続けるべきですかね?」

 萩島が、尋ねる。

「そうですね。萩島さんが仰るように、犯人は、こちら側の対応を計算している可能性があります。爆発がこれ以降に起こる可能性も捨てきれませんから、安全を重視して点検を続行する方がいいのかもしれません」

 高橋の助言を聞いて、萩島は、携帯電話を取り出し、肥後トンネルにいる牟田に連絡を取った。

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