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幼なじみとは話すだけ  作者: 元田 幸介
第二話題
8/9

幼なじみは言葉足らず

「お前、設定盛りすぎだろ……」

 ただでさえ頭がパンクしそうなのに、伊生はこれほどまでかというくらい、さらに新事実を突きつけた。 

「べつに、好きで盛るわけないでしょ」

 俺の言葉に、伊生は不愉快な顔になる。

「ウチのバカオヤジが盛ったのよ」

 伊生は舌打ちしながらそう言った。


「盛ったって……もしかしてアレか?」

 父親に対して、あからさまな不快感を示す伊生を見て、俺は「もしかしたら」と思う。

「アレよ。()()

「……あー、なるほど」

 姉弟なのに同じ学年な理由が分かった。

「……けっこう会うのか?」

 そこらへんは家庭の問題もあるので、深くは聞けない。俺は二人の関係を確認した。

「そりゃもう。学校じゃ話さないけどね」

 たしかに伊生が学校で鷺沢くんと話しているのを見たことはない。

「もしかして、鷺沢くんの漫画好きって、お前の影響か?」

「ん、そうじゃない? たまにあいつの部屋に行く時、読み終わった漫画あげてるし」

「ふうん……ちょっと待て」

「何よ? 部屋の間取りは教えないわよ」

「図画工作1にそんなたいそうなこと求めねえよ。あげた漫画の中に、『連雀通りの雀原』ってあるか?」

「あー、あったかな。なぜかウチに二冊あったから、一冊あげちゃった」

「一冊は俺のだ!」

 俺はかつて、伊生に貸したままにしてあった漫画を、自分のカバンから取り出す。鷺沢くんに「今」借りているものだった。

「あれ? そうだっけ?」

 伊生は首をかしげる。

「お前さ、又貸しってレベルじゃねえぞ」

 今の今まで忘れていた俺が言うのもあれだが、それでも伊生のした行いは最低極まりない。

「あはは、ごめんごめん! でもいいじゃん。あたしが貸した漫画をキッカケに歌音と友だちになって、こうして戻ってきたわけなんだからさ。それにあげたと言っても、すぐに取りにいけるしね」

 いつものごとく、本来なら笑って済まされないことを、伊生は笑って流そうとする。聞く限りだと、伊生はよく鷺沢くんの家に遊びに行くらしい。

「それでさ」

 伊生は俺に追撃させないように、別の話題を振った。

「歌音があたしをどう呼んでいるか知ってる?」

「お喋りシモネタ盗人女?」

「姉さん、よ」

 俺のみぞおちに拳を打ち込み、伊生はしみじみと答える。

「状況を思えば、あたしは恨まれても仕方ない存在よ。でも歌音はあたしと出会った当初、姉と認識してくれたわ。……うれしかったわ」

「フォーリンラブか」

 みぞおち部分をさすりながら、俺は弱々しい声で茶化す。

「そんなわけないでしょ。あたしはね、『弟』というよりも『妹』だと思っているくらいなんだから。どっちかといえばスールな関係よ」

「そうか……」

 俺が思っているような、「血で血を洗う」ような感じでは無さそうでほっとした。

「で、マイマイ(あたしの妹)と付き合うの?」

「カタツムリみたいな言い方やめろ。まだ分からねえよ」

 姉弟(姉妹)ということにはたしかに驚いた。だがそれとこれとはまた別問題いだ。

「あたしがお姉ちゃんになるのが嫌なの?」

「おえ!」

 思わず俺はえずいてしまった。

「ふんっ!」

 そこに伊生は本気で吐かせに来る。今度は紙一重でかわす。


「こんな『くだらねー会話』の中で結論を出したくないだけだ。お前が姉とか、そんなもんは関係ない」

「……ふっ、あんたならそう言うと思っていたわ。学校休んでもいいからちゃんと考えなさいよ」

「そのつもりだよ」

 今日は金曜日。今から家に帰って土日挟めば十分考える時間はある。

「――あれ?」

 ここで俺はあることを思い出す。ええっと、たしかこの話題が始まってからけっこう最初の方で……。

「あ」

 完全に思い出した。

「漏らしたの?」

「なあ伊生。お前たしか鷺沢くん……『歌音』が俺を好きって言った時さ」

 そこから先を聞くのはけっこう勇気がいる。だが、


「お前……『大きい』って言ったよな」「うん、言ったよ」


 聞き間違えではなかった


「鷺沢くんと話していたけど……そんな大きくはなかったんだけど」

 というか、大きいはずがない。

「あ、ごめん。それは完全に語弊があったわ」

「だ、だよなあ!」


「おっきいのは下だったわ」


 ガチゴチに体が固まる。俺は口だけをなんとか動かした。

「み、見たことあるの?」

「偶然ね」

「そんな偶然あるわけ……」

「そりゃあるでしょ。『風呂に入ろうとドア開けたら、すでに誰かが入っていた』なんて経験、あんたにだってあるでしょ?」

「あー、たしかに何度か……」

 妹にぶち殺されかけた過去を思い出す。あれ以来、俺は風呂場でノックする習慣をつけた。


「その時ちらっと見えたのよ。それだけよ」

「あーなるほど……いや待て待て!」

 自然すぎて一瞬違和感に気づかなかった。俺は地雷原を進むかのように慎重に訊いた。


「鷺沢くん……お前んちで暮らしてんの?」

「言わなかったっけ?」

「言葉足らずか!」

 

「盛り」すぎて、もうてっぺんが見えなくなっていた。


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