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幼なじみとは話すだけ  作者: 元田 幸介
第二話題
7/9

幼なじみは暴露する

 鷺沢くんは男の俺から見ても、嫉妬を起こすことも馬鹿らしいくらいの美少年だった。


 当然、女子からの人気は高く、俺は数少ない男子というアイデンティティをまったく活用できなかった。


 そのせいで、俺は鷺沢くんに対してあまりいい感情を持たなかった。かっこ悪いが、逆恨みだ。

 だがそれは間違いだった。俺と鷺沢くんはビックリするくらい気が合った。

 話の内容は主に趣味の漫画の話で、俺はよく鷺沢くんに漫画を貸していた。

 ――いつも色々貸してくれてありがとう――

 同性と分かっていてもドキッとしてしまう。それぐらい、鷺沢くんの笑顔は魅力的だった。

 だが、一緒に遊びに行くということはなかった。というのも鷺沢くんはアルバイトをしているらしく、放課後は空いていなかったからだ。

 だから俺と鷺沢くんは学校内……教室だけの関係だった。それでも、友達なのには変わりない。

 

 だが、アホな幼なじみのせいで、俺はその数少ない友達を、失いそうになっていた。


「ちょっと待った!」


 俺のモノローグを読み取ったかのように、伊生は大声を出した。

「なんであたしが悪いみたいになってんのよ! 名誉毀損よ!」 

「実際そうだろ」

 頭が混乱する。俺はいつも通り、伊生と話すことができなかった。

「あのね、あたしはべつに嫌がらせのつもりで言ったわけじゃないのよ」

「プッチ神父か」

「は?」

「どういうつもりだよ?」

 悪意なき悪という意味で言ったが、伊生には届かなかった。


「最初にあたしこう言ったでしょ? 『気になるんだってね』って。つまり、あんたはとっくに歌音の気持ちを知っていると思ったのよ」

「いや初耳なんだが……」

「はあ~、ラノベ主人公並みに鈍感ね。まあ、下の名前を知らなかったくらいだもんね」

「うっ……!」

 悔しいがそこは否定できない。だが、

「たしかに、俺は鷺沢くん=歌音とは知らなかったよ。でもな、断言してもいい。俺は鷺沢くんに告られるようなこと、言われていない」

 あくまで俺と鷺沢くんは漫画の話題で盛り上がっただけ。ドキッとしたことはあっても、そういう話題になったことはない。

「ふっ、それはどうかしら?」

「あん?」

「言われても気づかなかったっていうのは、十分考えられるわよ」

「いや、いくらなんでも俺はそこまで鈍くねーぞ?」

「それは『異性』に対してはでしょ? 同性だから無意識に聞き流しているっていうこと、あるんじゃない?」

「…………」

 そう言われ、俺は鷺沢くんと交わした会話の一部分を思い出した。

 あれは例のごとく、ラブコメ漫画について話している時だった。

 

 ――この凛音って子、主人公とくっつかないかなあ――

 鷺沢くんはその漫画に出てくる凛音というキャラが、主人公とくっつかないかと願っていた。

 ――いや、無理だろお――

 それに対し、俺は笑いながら答えた。「メインヒロイン」じゃないから……ではなく、そもそも土俵にすら上がれていなかったからだ。

 ――……そっかー、まあそうだよね――

 鷺沢くんは残念そうに肩を落とした。

 ――どうしてそんなに肩を持つんだ? ――

 本気で落ち込んでいるような顔をする鷺沢くんに、俺はその理由を尋ねた。

 鷺沢くんは唇をぎゅっと閉じ、ごくりとつばを飲み込んでから口を開けた。

 ――似ているから……かなあ――

 顔を朱に染め、鷺沢くんはちらりと俺を見ながら、照れくさそうに答えた。


 それで、その話題は終わった。ちなみに三日前の話だ。


 べつになんてことはない、日常の中の何気ない会話……だがその後の鷺沢くんの俺に対する「微妙な反応」を考えると、あれはかなり遠回しな「告白」だったのかもしれない。


 鷺沢くんが応援していた凛音なるキャラは、男だった。


「思い当たるふしがあるようね」

「……まあ、少しは。でも……」

「なに? 『気持ち悪い』とか思っているの?」

 じろりと伊生は俺をにらみつける。

「んなこと一ミリも考えてねえよ」

 そう。不思議と俺は鷺沢くんに「告白(まだ不確定だが)」されたと知っても、伊生が思うような不快感は一切感じなかった。

「お前に告白される方が気持ち悪い」

「安心して、そんなことは万に一つもないから。じゃあ何が問題なの?」

「問題ってわけじゃねえよ。ただ分からないだけだ」

 本当に俺は鷺沢くんとはただ漫画の話をしていただけだ。

「その『話してただけ』っていうのが重要なんじゃないの?」

「え?」

「……正直言うとね、歌音に話しかける女子っていうのは物珍しさが一番最初にあったの。あっ、あたしは違うわよ?」

「それはあれか? 動物園にいるパンダを観にいくみたいなもんか?」

「まあ、そうね。みんな、歌音を『女装アイドル』っていう色眼鏡で見てたわ。だから、話す内容も『そっち系』ばかりだったわね」

「まあ、気持ちはわかるよ」

 避難する気にはなれない。たまたま知らなかっただけで、俺だって同じように接していたかもしれない。

「だから、あんたが『普通』に接して、漫画の話をしてくれたのが、嬉しくて、それがいつしか恋愛感情になったんでしょうね」

「あー、なるほど」

 だいたいは理解できた。

「で、どうするの?」

 答え合わせを終え、伊生は最終確認をするかのように、訊いてきた。

「お前に答える必要はないだろ」

「う、それはそうだけど……」

「安心しろ。返事はちゃんとするから」

 

 まだどう答えるかは決めていない。だがちゃんと考えた上で答えるつもりだ。

「……ならいいんだけどさ。お似合いだとは本気で思うわよ」

「それより訊きたいことがあるんだが」

 俺は伊生の言葉を受け流し、指を一本立てる。

「お前って鷺沢くんとどういう関係なんだ?」

 あまりに自然と話が進むものだから、俺は根本的な疑問を忘れていた。


「あれ、言ってなかったっけ?」

「言ってねえよ。なんだ、元カノとかか?」

「それより強い絆よ。……無いとは思うけど、『秘密』にできる?」

「何か込み入った事情なら、言わなくていいぞ」

 約束できるか分からない。俺はそう言った。

「いややっぱり言っとくわ。あんたは言いふらすような友達いないだろうし」

「大きなお世話だ」「弟」

「ん?」

 何か言われたような気がする。だが耳に入らなかった。

「あたしは姉」

「ん?」

 今度はちゃんと聞き取れた。が、脳が理解できなかった。


「血を分けた本当の姉弟よ」

 

 ダメ押しと言わんばかりに、伊生は衝撃的な秘密を暴露した。





 

  

 

  

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