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幼なじみとは話すだけ  作者: 元田 幸介
第一話題
2/9

幼なじみは自惚れる

※少し下ネタあります

 この先何度も言うことになるが、俺と伊生は幼なじみである。幼なじみなのである。だから特別な感情はないし、この先そうなるとも思っていない。


「人として好き」


 俺たち二人の共通認識はまさにそれで、この関係はちょっとやそっとじゃ変わることのない、だからこそ固い絆で結ばれていた。


 ――と、格好いいことを言ってはみたものの、俺が伊生に対し好意的な感情だけを持っているわけではない。むしろそれは稀で、敵意を持つことの方が多い。あの日もまさにそれだった。


 

 六月某日。梅雨は明け、空は快晴だった。だが俺の中にはまだ雨が降っていた。

「どしたの?」

 示し合わせたわけでもなく、いつものように伊生と一緒に帰っている時だった。伊生は俺にそう話しかけてきた。

「なんでもねえよ……」

 俺は伊生から顔をそらす。

「いやあるでしょ? 構ってオーラめっちゃ見えるし」

 だが伊生はしつこく食い下がってきた。

「何にも……ない」

 伊生から少しでも距離を取ろうと、俺は足早に歩き出す。

「嘘だね」

 だが伊生も足を早めてくる。

「ついて……くんなよ……!」

 俺はさらにペースを上げる。だが伊生は平気な顔して歩幅を合わせてくる。

「もしかしてアレ?」

 伊生は息一つ切らさず、俺にこう言った。

「フラレたとか?」

 足が俺の意志とは関係なく止まる。つんのめり、前に倒れそうになった。

「…………」

「え、マジで?」

 沈黙をイエスととらえた伊生は、口に手を当て驚きの声を上げた。

「ああフラれたよ」

 俺はやけくそにうなずいた。

「ふーん、そうなんだ……奢ってあげよっか?」

「安い慰めはやめろ。小さな親切大きなお世話だ」

 同情ほど相手を貶める行為はない。俺は厳しい口調で伊生を突き放す。

「べつに安くもないし、小さくもないけどなあ。けっこう高いでしょ」

「たかが一五〇円くらいで、恩着せがましいこと言うんじゃねえ」


「いやジュースじゃなくて、アレよアレ」


「は? アレ?」

 ジュースの話かと思っていたが、違った。困惑する俺に伊生は、ジェスチャーをし始めた。

「ほら、アレよ。シュッシュって……気持ちいいんでしょ?」

 右手で輪を作り、その穴に左手の人差し指と中指を突っ込み、上下に出し入れする伊生。

「ネットで調べたんだけどあーいうのって、使い捨てでも一〇〇〇円くらいするんでしょ? あ、それともあんたはこんにゃくと片栗粉で――」

「ば、ばかやろう!」

 その「名称」こそ出さないが、伊生が何を言おうとしているのかは、その仕草で分かった。俺は困惑と怒りが混ざりあった声を出していた。

「いきなり何言い出しやがる! つかなんで女のお前が知ってんだ!」

「兄貴が持ってたからかな。ねえ、あれってそんなに気持ちいいの?」

「知らねえよ!」

 恥ずかしげもなく、伊生は次々に下なネタを飛ばしてくる。こっちの方が恥ずかしくなってきた。


「そんなに怒んなくたっていいじゃん。人がせっかく慰めてあげようと思ってたのに!」

「けっきょく自分で慰めなきゃいけねえだろが!」

「あ、上手い! さすがプロ!」

「上手くねえよ!」

 次から次へとよくもまあ怒りを買わせるものだ。俺は獣の雄叫びのごとく吠えたが、伊生には馬耳東風だった。

「で」

 伊生は前髪をいじりながら、いきなり声のトーンを落とした。そして照れくさそうに体をもじもじさせながら、自分の顔に指をさす。


「原因は、あ・た・し?」「自惚れんなシモネタ女」


 間髪入れず、俺は「反撃」した。

「はああ? 誰がシモネタ女よ!」

「お前以外いねえだろうが」

「このっ! あたしのなんか軽いものよ!」

「軽い重いじゃなくて、お前のはいちいち生々しいんだよ。シモネタって言ったが、お前のは全然笑えない」

「わ、笑えない……?」

 想像以上に伊生はショックを受けていた。それはまるで内輪で面白いと絶賛されていた漫画が、持ち込みに出すとボロクソに評価された()()()()()のようだった。

「あ、あたしが……いつ・どこで・誰が・誰のために自惚れたって言うのよ!?」

 困った伊生は別の話題に切り替える。

「今・ここで・お前が・俺に対して、だ!」

 一転攻勢。俺はさらに伊生を追い詰める。

「伊生、お前は勘違いしているようだが、俺とお前の『関係』なんてな……同じ学年の奴らには周知の事実なんだよ。つまり、それが原因になることはねーんだよ。分かったか自意識女」

 皮肉なことに喋っていくうちに、だんだんと調子が戻ってきた。言いたいことが言えてかなりすっきりした。

「…………」

 伊生は何も言えずぽかんとしている。やっべ、すごい高揚感!

「あのさ、あたしが自惚れ……というか、勘違いしてたのは認めるけどさ」

 少し、言いづらそうにしながら、伊生は俺に向かってこう言った。


「フラれたことには、変わりないわよね?」


 高鳴る気持ちが一気に沈み込む。それほど、伊生のセリフは俺に大きな精神的ダメージを浴びせるものだった。




 

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